今回はちゃんと風呂にも入ってるんだ。バレるはずがない

「……臭い、落ちてる?」

「自分たちでは分からないな」


 風呂を上がったところで、リアがそう聞いてきたから、俺は正直に思ったことを言った。

 実際分からんしな。


 そんなやり取りをして、俺たちはリビングに向かった。

 昨日は朝食を食べ損ねたからな。

 今日はちゃんと朝食をとろう。……現実逃避にもなるしな。


「あ」


 そう思っていると、リアが突然そんな声を上げた。

 ……凄く、嫌な予感がする。


「……どうした?」


 聞きたくない。聞きたくは無いけど、聞かないわけにはいかないから、俺はそう聞いた。


「アリーシャとヘレナが来た」

「……それだけか?」

「? そうだよ」


 そうなのか? いや、だったら、この嫌な予感はなんだ? ……確かに今日もまた、俺はリアとそういうことをしてしまったが、今日は昨日とは違って風呂にも入っているし、俺たちがそういうことをしたなんてこと、完璧に隠蔽出来ているはずだ。

 なのになんだ? この嫌な予感は……


 俺が嫌な予感の正体を掴めずにいると、昨日同様、玄関の扉がノックされた。

 

「リア、出てくれるか?」

「分かった」


 今日は居留守をする必要なんてないし、俺はリアにそう言って、また嫌な予感の正体を考え始めた。


 ……だめだ。どれだけ考えても、分からない。絶対に何かやばいことだってことは分かるんだが、肝心のその、何か、が分からない。

 俺がそう頭を捻っていると、リアがアリーシャとヘレナを連れて、部屋に入ってきた。

 その瞬間、一気に空気が重くなった気がした。……心做しか、リアも気まずそうな顔をしている気がする。


「ど、どうかしたか?」


 まさかバレたか? と一瞬考えたが、ちゃんと風呂にも入って、臭いを落としてるんだから、バレるはずがないと頭を振って、俺はそう聞いた。

 

「ふふ、どうかしたか、ですか?」


 すると、アリーシャが笑みを浮かべながら、そう言ってきた。……笑顔、だよな? ……ヒロインがしていい笑顔じゃないぞ? ……口が裂けてもこんなこと言えないけど。


「……あんたってさ、朝風呂とか、入るタイプなの?」

「え? いや、入らないけど……」


 急になんだ? なんで今、朝風呂なんて話が出てくるんだ? 

 

「ふふっ、そうよね。……一応聞くけど、リアもそういうタイプじゃ無いわよね?」

「……う、うん」

「でしたら何故、お二人から石鹸やシャンプーの匂いがするのでしょうか」


 最後のアリーシャの言葉を聞いた瞬間、俺は固まった。

 あ、あれ〜? 完璧に隠蔽出来てたはずなんだけど、まさかこんな落とし穴があったなんてなぁ……盲点だったなぁ。

 って、こんな現実逃避してる暇じゃねぇよ! な、何か言わないと。


「た、たまたま、今日は朝風呂の気分だったんだよ。なぁ、リア?」

「えっ? う、うん。そう、かも……」


 リアが曖昧に頷いたところで、アリーシャがこっそりと俺に近づいてきた。

 あ、やばい。これ、リアの反応で、絶対バレただろ。


「正直に言ってください。そうすれば、取り敢えずは、ヘレナには言わないでおいてあげますよ?」


 そして、そんなことを耳打ちしてきた。

 

「……取り敢えず?」

「はい。取り敢えずです」

「……また、リアが酒に酔って、襲われました」

「そうですか」


 取り敢えずってことは、後で言うってことなんだろうけど、今を乗り切れば、何かいい言い訳が思いつくかもと思って、俺はアリーシャに正直にそう言った。

 すると、アリーシャはとてもヒロインが浮かべる笑みとは思えない笑みを浮かべながら、そう言って、ヘレナの元に向かっていた。


 取り敢えず、助かった、ってことでいいのか? ……いや、でも、嫌な予感が消えないんだよな。

 

「では、行きましょうか」


 アリーシャの笑みに軽く恐怖しながら、そんなことを考えていると、ヘレナに何かを耳打ちしたアリーシャは突然そう言って、俺の手を握ってきた。

 行くって、どこに?

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