俺、悪くないよな?

「頭、痛ぇ」


 俺は最悪の気分で、風呂場で目を覚ました。……服を着てないリアに抱きつかれながら。

 ……うん。あれだ。また、やってしまった。

 多分、世界中を見ても、俺だけなんじゃ無いかな。……リアみたいな美少女とそういうことをして、最悪な気分になるやつとか。

 ……いや、俺だってさ、もしもリアが公爵家と関わりがなかったら、まだ喜べたかもしれない。でも、残念なことに、リアはめちゃくちゃ公爵家と関わりがあるんだよ。

 

 これ、俺が悪いのか? 俺、悪くないよな? リアが襲ってきたんだもんな?

 ……つか、なんで扉を壊して入ってくるんだよ。普通、そんなの予想できるわけ無いだろ。

 と言うか、風呂で襲ってくるなよ! 普通に危ないだろ! ……酔ってたんだから、仕方ないのかもしれないけどさ。


「はぁ」


 取り敢えず、起こさないと不味い、よな。

 こんな状態で抱きつかれてたら、昨日めちゃくちゃ襲われたのに、変な気分に……ならないな。……うん、リアみたいな美少女に裸で抱きつかれてるのに、びっくりするほどそんな気分にならない。

 ……多分、興奮なんて感情が湧き出るより先に、焦りとか後悔っていう感情が先に来てるからなんだと思う。……本当に、やってしまった。……二度目とはいえ、最悪だ。……しかも、またヘレナやアリーシャにバレたら、何を言われるのか分かったものじゃない。……ヘレナはまたおかしくなるかもだし、本当に嫌だ。

 ……さっさとリアを起こして、口止めをしよう。

 幸い、と言っていいのかは分からないが、ここは風呂場だし、体の臭いくらい直ぐに落とせるしな。


「リア、起きろ」


 そう思った俺は、リアの体を揺すりながら、そう言った。

 

「ん……」


 すると、リアはゆっくりと目を覚ました。

 この前の反省を生かして、リアが目を覚ますのを確認した俺は、リアの方を見ないように、目を逸らした。

 ……この前やらかしてしまった時は、どうしようかと考えながらリアのことをジロジロ見ていると「えっち」だなんてどう考えても俺のセリフであろう言葉を言われてしまったからな。


「…………えっち」


 リアの方なんて全く見ていない。

 なのに、耳の先まで真っ赤にしたリアにそう言われてしまった。

 いや、おかしいだろ!? 俺、別にリアの方見てなかっただろ! しかも襲ってきたのそっちだからな!? しかも、扉まで壊してだぞ!? どう考えても、そっちの方がえっちだろ!


「それは俺のセリフだろうが。扉まで壊して襲ってきたのはリアだからな?」


 そう思った俺は、口調が荒くならないように、何とかそう言った。

 

「……お酒、飲んでいいって言った」

「それは……確かにそうだが、鍵を閉めてたら安心だと思うだろ、普通」

「……酔ってるんだから、常識なんて通用しない」


 いや、なんで俺が責められてるんだ? どう考えても、今回はリアが悪いだろ。


「分かった。もうなんでもいいよ。その代わり、今日のことは誰にも言うなよ。後、これからは俺が近くにいる限り、酒は禁止だ」

「えっ、また一緒に飲んじゃだめ?」

「絶対ダメ」


 一緒になんて飲めるわけないだろ。……そもそも、俺、まともにリアと一緒に酒飲んだことなんて無いぞ。いつも……って言っても、二回だけど、その二回とも、無理やり飲まされてるだけだからな?


「…………分かった」


 そう思っていると、リアは不満そうにしつつも、頷いてくれた。

 

「よし。じゃあ、リアはタオルを取ってこい。……ついでに、水も頼む」


 それを確認した俺は、リアに向かってそう言った。

 すると、小さく頷いて、リアは恥ずかしそうに風呂場を出ていった。

 いや、だってさ、俺は腰に巻くようのタオルがあるけど、リアは昨日酔っ払ったまま風呂場に入ってきたから、タオルが無いんだよ。

 そして、リアが俺から離れてくれたタイミングで、俺はタオルを腰に巻き直した。

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