あ、やばい。この流れ、知ってる…

 あれから家に帰った俺は、昨日とは逆でリアに酒を勧められていた。

 いや、飲まないからな? リアの酒の酔い方があんな感じだって分かったし、尚更飲まないからな?

 ……昨日リアに俺が酒を勧めた理由は、リアを酔わせて、その間に逃げる為だったんだし。


「飲まないの?」

「飲まない。……と言うか、そんなに飲みたいのなら、一人で飲めばいいだろ」

「……いいの?」


 俺がそう言うと、リアが少し驚いたように、そう聞いてきた。

 逆になんで俺がダメだなんて言うと思ってるんだよ。飲みたいのなら、勝手に飲めばいい。一人でなら、いくらでも飲んでくれて構わないし。


「あぁ、勝手にしてくれ。俺は風呂入ってくる」


 結局、俺たちはあのまま、風呂に入れてないしな。

 ……リアも臭うんだろうけど、一緒に入るわけにもいかないし、リアは明日にでも一人で入ればいい。

 ……そもそも、もう酒を飲み始めてるし。


 昨日みたいに捕まえられて無理やり酒を飲まされないうちに風呂場に向かおう。

 リアに力ずくでそんなことをされそうになったら、抵抗できないしな。

 

 そう思った俺は、急ぎ足で風呂場に来た。

 そして、風呂場に来たところで思ったんだけど、着替えとか、どうしたらいいんだ? 流石に同じのを着る訳にはいかないよな……

 ……ん? あれ、着替え、あるじゃん。……公爵が置いてくれてたのか? 気が利くな。

 

 そして、無駄にでかい風呂の湯を沸かしてから、俺は服を脱いで、適当に髪の毛と体を洗ってから、風呂に浸かった。

 ……なんか、嫌な予感がするから、ちゃんと風呂場の扉の鍵を締めながら。

 いくら俺でも、あんな酔い方をするリアが同じ屋根の下で酒を飲んでるのに、鍵も閉めずに風呂に入るなんて馬鹿なことはしない。素面の状態リアならともかく、酔った状態のリアなら俺が風呂に入ってるのに、普通に一緒に入ってきそうだからな。


 そんなことを考えながら、風呂に浸かって体の臭いを落としていると、案の定と言うべきか、風呂場の扉がガチャガチャと音を鳴らし出した。

 ……絶対リアだろ。……鍵、閉めといて良かった。……鍵を閉めてなかったら、今頃リアにナニをされてるか分かったもんじゃ無いしな。


 そう思いながら、リアが扉をガチャガチャしてるのを無視して、俺はそのまま湯船に浸かっていた。

 早く諦めてくれないかな。……そこに居られたら、まだ上がらないけど、風呂から上がる時、上がれないだろ。

 そして、そう考えたところで、突然扉の方からガタンッ、と音が鳴った。


 な、なんだ?!

 心の中でそう思いながら、俺は扉の方に顔を向けた。

 すると、そこには扉を左手に、昨日の度数が強すぎる酒を右手に持ったリアが服を脱いだ状態で居た。

 ……絵面が怖すぎるだろ。

 え? 扉を片手に酒を持った状態って何!? 意味わからんだろ。……いや、リアが……Sランク冒険者が意味わからんのは今更なんだけどさ。

 

 俺がそんなことを考えながら現実逃避をしていると、手に持った扉をその場に置いて、俺の方に近づいてきた。

 

「り、リア? 落ち着け。冷静になるんだ。あ、あれだ。俺、水とか持ってきてやるぞ?」


 俺がそう言うと、リアは何も答えずに酒を口に含んで、俺に抱きついてきた。

 お互い裸……なんてことは最悪どうでもいい。そうじゃない。そうじゃないんだ。

 俺、この流れ、知ってるぞ? なんなら、昨日体験した。

 今から何をされるのかを察してしまった俺は、必死に抵抗をしようとするが、いくら酒に酔ってるとはいえ、Sランク冒険者のリアの力に勝てるはずもなく、俺はリアに唇を重ねられた。

 やばい。やっぱり、この流れ、知ってる……

 そう思いはしても、俺は何も出来ずに、そのまま酒を口移しで飲まされてしまった。

 風呂場で酒って、不味い、だろ……

 俺は最後にそんなことを考えて、酒に飲まれていった。

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