嫌な予感の正体

「大丈夫ですよ? どうせもう着きますから」

「は?」


 アリーシャのそんな言葉と同時に、馬車が止まった。……止まってしまった。

 嫌な予感をひしひしと感じる。


「お、俺、まじで用事があるから、もう、行っていいか?」

「それを今から確かめるので、大丈夫ですよ」


 色々と考え事をしてて、周りを見てなかったから、今ここがどの辺なのかすらも分からない。

 そう思って、恐る恐る窓から外の様子を覗こうとしたんだが、そんな暇なくヘレナとアリーシャに引っ張られて、馬車を降ろされた。

 すると、そこにはものすごく知ってる建物が目の前にあった。

 いや、知っていると言っても、実際に見たことがある訳では無い。……原作知識で、見たことがあるんだ。

 

「な、なぁ、一応聞くんだけどさ、ここってどこだ?」


 俺は目の前の真っ白い建物を指さしながら、そう聞いた。俺の勘違いであってくれ、とそう願いながら。

 

「見てわかる通り、教会ですよ」

「教会よ」


 すると、二人は俺の願いなんて知らずに、無慈悲にも同時にそう言ってきた。

 終わった。……いや、まだ、終わったと決まったわけじゃない、のか? 


 ここがただの教会なら、俺は全然いいんだよ。神とかを信じてる訳じゃ……ないことも無いか。原作者が神みたいなもんだもんな。

 いや、まぁそれは置いといて、原作者以外に神がいるだなんて思ってないけど、公爵領にある教会以外なら、喜んで行った可能性……は無いけど、こんな気分にはならずに着いてきてたさ。


 もう嫌という程理解しているが、公爵領は俺にとって地雷なんだよ。……それは、俺が公爵令嬢二人を攫った本当の誘拐犯だってことがバレるかもしれない、という理由ももちろんあるが、それだけじゃない。それ以外にも、何個か俺にとっての地雷があるんだよ。

 そして、その内の一つが、この教会だ。……いや、正確には教会にいる人物と言うべきか。

 ともかく、だから俺は公爵領からさっさと逃げ出したかったんだよ。


「……先程も言いましたが、元々あなたを今日ここに連れてくるつもりはなかったんですよ。でも、お父様からいつかは合わせておけ、と言われているので、早いか遅いかの違いですね」


 は? ……え? アリーシャの父親……筋肉じゃない方の公爵から、合わせるように言われてた? ……嘘だろ。いや、マジで嘘だろ?

 なんでだ? 筋肉じゃない方の公爵から嫌われていることは知っていたが、もしかして、何か疑われてもいるのか?

 アリーシャの言葉を聞いた俺は、そう勘繰らずには居られなかった。

 だって、ここに居るのは、その目で見ただけで嘘を見破る目を持つ聖女様なんだから。

 ほら、物語にはありがちな展開だろ? ははは……全く笑えない。本当に、笑えない。

 冗談じゃない。そんなやつと出会って、もしも「あなたは何か犯罪を犯していたりしますか?」なんて聞かれてみろよ! 一発でアウトだ。


「……一応言っておくけど、私のお父様からもあんたに合わせるように言われてたのよ」


 そう絶望していると、ヘレナは俺のことが嫌いなのか、更に俺に追い打ちをかけるようにそう言ってきた。

 え? 筋肉の、公爵の方にも、合わせるように言われていた? ……あれ? もしかして、俺、やっぱり終わったのか?

 本当はもう俺が誘拐犯だってことが全部バレてて、最終確認のために今日ここに俺を連れてきた、のか? さっきアリーシャが言っていた今日連れてくるつもりじゃなかったって言うのはもしかして全部嘘なのか?

 そう考え始めると、冷や汗が止まらなかった。

 

 そうしていると、教会の中から白い……俺には名前の分からない白い服……でいいのか? ともかく、そんな服を着て、俺と同じ黒い髪をなびかせながら、一人の少女が護衛に囲まれるようにして、出てきた。

 そして、俺たちの方向にゆっくりと向かってきている。

 ……これが、嫌な予感の正体かよ。

 そこまで追い詰められて、俺はようやくそのことに気がついた。

 

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