ど、どうも

「なぁ、ヘレナ」

「な、何よ!」

「このままヘレナの父親の公爵様に会って、大丈夫だと思うか?」

「し、心配なら、離れたらいいじゃない! ……私には、あんなに離れろって言った癖に……」


 そりゃ離れたいさ。でも、離れられないんだよ。……呪いだよ呪い。俺は離れたいはずなのに、離れることが出来ない呪いだ。……いや、俺が脅されてるだけなんだけどさ。

 

「……いいだろ、別に。……それより、大丈夫そうかを教えてくれ」


 脅してきた張本人の二人の前で、馬鹿正直に脅されたからだ。なんて言ったらどうなるか分かったものじゃないし、それには触れずに俺はそう聞いた。

 ……アリーシャはまだともかくとして、リアを今怒らせでもしたら、普通に俺の腕が死ぬ。……正直、力加減が苦手なのか、やっぱりリアが抱きついてきてる方の腕はちょっと痛いんだよ。

 ……いや、昨日、ベッドの上ではそんなこともなかったし、わざとなのか? ……やっぱりちょっと怒ってるのか? ヘレナのほっぺにキスしたこと。……だったら、あの時何か反応しろよ。……いや、反応されたところで、あの時ヘレナのほっぺにキスしないって選択肢はなかったんだけどさ。……あのままだったら困るし。


「……知らないわよ! 別に大丈夫なんじゃない?」


 そんな適当な……

 いや、案外大丈夫なのか? アリーシャの親の公爵に会った時は、娘のアリーシャが俺にくっついてたから怒っただけで、アリーシャが俺にくっついてなかったら大丈夫だったかもしれないし、今回の場合はヘレナが俺にくっついてなければ、大丈夫なのかもしれない。

 ……公爵の前でイチャイチャしてなんなんだ、とか不快には思われるかもしれないが、恩人補正で何とかなるだろ。多分。


「私も大丈夫だと思いますよ。私はともかく、リアはファブリチオ様と対面する時になれば、離れてくれると思いますしね」

「……うん。流石に、その時は離れるよ」


 ……いや、普通にアリーシャも離れてくれよ。……私はともかくってなんだよ。リアと一緒に離れてくれ。……言わないけど。……キスの話をアリーシャ公爵に言われたら困るし。特にアリーシャの父親の方。


「……そりゃありがとよ」

「うん」


 普通に頷いてくるなよ。別にいいけど。

 そう思っていると、アリーシャが近くにいたメイドにアイコンタクトをしていた。


「お話は終わりましたか?」


 すると、そのアイコンタクトを受けたメイドはこっちに近づいてきて、一度頭を下げてから、ヘレナとアリーシャにそう聞いていた。


「……終わったんじゃないの」

「はい。終わりましたよ」

「旦那様がお待ちです」

「……分かってるわよ」

「分かりました」

 

 アリーシャが笑顔で、ヘレナが拗ねたようにそう言っている。

 いいのかアリーシャ。ヘレナは友達なんだろ? 何か言ってやらなくて、いいのか? ……それか俺から離れて、ヘレナの変なプライドをつつかないようにしてくれ。


「……ほら、さっさと行くわよ」


 そう思っていると、ヘレナはそのまま、メイドを置いて先に行ってしまった。

 ……いいのか? このまま行っても。

 メイドはともかくとして、アリーシャも何も言わないし、別にいいのか。

 そう考えて、俺は屋敷に入っていくヘレナの後を追った。

 アリーシャの家に行った時も何とかなったし、まぁ、何とかなるだろ。




「ここよ。ここが応接室よ」


 そして、ヘレナは一つの部屋の前に立つと、俺たちに……いや、アリーシャとリアは知ってると思うから、俺に向かってそう言ってきた。

 すると、リアは名残惜しそうにしながらも、俺から離れてくれた。

 なのに、リアと入れ替わるようにして、ヘレナが俺の腕に抱きついてきた。


「へ、ヘレナ? 何、やってるんだ?」

「……な、何よ。馬車から出る時はちゃんと離れたんだから、いいじゃない」

「いいわけないだろ!? 今から誰と会うと思ってるんだよ」


 だから、直ぐに離れろ。

 そう言おうとしたんだが、ヘレナが俺の言葉を遮って、行ってくる。


「アリーシャの父親……バザルト様に会った時もこんな感じだったじゃない。なんで私のお父様に会う時は、ダメなんて言うのよ。……もう、このまま行くから。……お父様、入るわよ」

「あっ、おい!」


 俺が止める間もなく、ヘレナはノックもせずに一言だけ言って、俺の事を引っ張りながら部屋に入って行った。

 

「……ど、どうも」


 そして、公爵と目が合った俺は、目を逸らしたい気持ちを抑えながら、何とか、そう言った。

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