ヘレナとは
「誤解?」
「あ、あぁ。何を考えてるのかは分からないが、俺とリアは昨日会ったばかりなんだぞ? そんなことはありえないって分かるだろ?」
そう、昨日会ったばかりなんだよ。
昨日会ったばかりなのに、リアは俺を好きとかわけわかんないことを言うし、一夜を共にしてしまったんだ。
……俺は悪く無いはずだ。リアに無理やりされたんだし、Sランク冒険者に抵抗することなんて俺にはできないしな。
「でしたら、さっきリアが言っていた、昨日はお互いいっぱい見たのに? という言葉は何だったのでしょうか」
「そ、そうよ! お風呂に入るかみたいな話をしてたんだから、そ、その、は、裸ってこと、でしょ!」
アリーシャは淡々とそう言ってきて、ヘレナは裸って言うのが恥ずかしいのか、顔を赤くしながらそう言ってきた。
……そんなところから聞いてたのかよ。
「そ、それは、聞き間違いだろ」
「……そうですか? でしたら、そもそもの話なんですけど、何故、一緒のベッドで眠っていたのでしょうか」
そう言えば、こんなベッドが一つしかない部屋でさっきまで寝てたなんて言ったら、一緒に寝てたってことになっちまうよな。
「あ、あれだ、ベッドが一つしか無かったからな? 流石にリアをソファで寝かせる訳にもいかないし、俺が無理やり言い聞かせて、一緒に寝たんだよ」
「リア、どうなの?」
俺に聞くよりリアに聞いた方が早いと思ったのか、ヘレナはリアに向かって問いかけているけど、大丈夫なはずだ。約束したしな。言わないでいてくれるって。
「…………」
「リア? なんで何も答えないの?」
り、リア? 頷いてくれるだけでいいんだぞ? さっきは頷いてくれたんだから、もう一回、頷いてくれるだけでいいんだぞ?
「……昨日は二人でちょっと酒を飲んだんだよ。それで、リアは記憶が曖昧なんだよ」
リアに頷いてくれる様子がないのを察した俺は、咄嗟にそう言った。
「それで、リアに襲われたのですか?」
「あぁ、そうなんだよ……じゃない。違う。そんなわけないだろ」
不味い。リアに襲われたのは事実だし、思わず頷いてしまった。
「……どうした?」
俺が顔に出さずに内心焦っていると、リアはまた、服をちょっと引っ張ってきたから、俺は小さくそう聞いた。
「二人は私の酔い方があれ、なの知ってる」
「……マジ?」
一瞬頭が真っ白になったけど、何とか声を振り絞って、俺はそう聞いた。
すると、リアは小さくこくり、と頷いてきた。
「全部、説明してもらえるわよね?」
「リアもですよ?」
終わった。……俺が墓穴を掘った。……知らなかったとはいえ、想像はできたはずだ。リアがああいう酒の酔い方をすることを二人が知ってることくらい、想像できたはずなのに。
「……し、知らなかったんだよ。リアがああいう酔い方をするなんて、知らなかったんだよ」
「それで、襲われたと?」
「……はい」
もう、言い訳はできないと思って、俺は素直に頷いた。
いや、よく考えたらなんだけど、二人に隠す理由ってあんまりなくないか? ……節操のない人間で、最低とは思われるだろうが、一応恩人補正があるはずなんだよ。だったらこれでプラマイゼロとはいかないが、少しマイナス位で、ちょうどいいんじゃないのか?
それに俺、本当に何度も言うけど襲われた側だしな。
……いや、無理やりポジティブな思考にしようと頑張ったけど、やっぱり公爵家が抱えてるSランク冒険者と関係を持ったってバレるのは嫌だったな。……公爵家側が俺を逃がせない理由が多分増えた。
実際はありえないんだけど、俺が逃げたらリアも一緒に逃げるかも? とか考えるだろうし、最悪だ。リア以外の監視をつけられるかもしれないってことじゃないかよ。
「……リア、説明しなかったの?」
「……言おうとしたのに、無理やり飲まされた」
「い、いや、人聞きの悪いこと言うなよ」
「だって、ほんとに言おうとした」
俺が心の中で絶望しているのを知ってか知らずかは分からないが、そんなことを言われた俺は、咄嗟にそう返した。
まぁ、確かに、何度も何か言おうとしてたのを俺が意図的に無視してたのは認める。でも、今言わなくても良くないか?
「それでは、何故私たちにその事を隠そうとしたのですか?」
「……最初は言おうとした。……でも、二人の秘密って言われて、流された」
「ふーん。じゃあ、あんたはなんで隠そうとしたのよ」
リアの言葉を聞いたヘレナが俺の方を向きながら、そう聞いてきた。
「……ま、まぁ、それはいいだろ」
「良くないわよ! 私とは、何も、本当に何も、してないのに……」
何故かヘレナは、泣きそうな顔でそんなことを言ってきた。
……リアとは一夜を共にした。アリーシャとはキスをした。……どっちも無理やりとはいえ、ヘレナだけ何もしてない。
……え? まさかとは思うけど、また変なプライドが傷ついてる訳では無いよな?
「リア、少し二人で話しましょうか」
「え……う、うん。分かった」
え? 今、俺の唯一の味方のはずのリアがアリーシャに連れていかれそうなんだが。
さっき余計なことをちょっと言わたけど、結局それは本当のことだし、リア的には嘘をつく訳にもいかないだろうから、仕方ない。だから、今ヘレナと二人きりにするのはやめてくれないか?
そんな俺の思いも虚しく、リアはアリーシャに連れていかれてしまった。
そして、二人が部屋を出て行った瞬間、ヘレナは聞いてきた。
「ねぇ、匂い、嗅いでいい?」
「……は?」
このヒロインは何を言ってるんだろうか。
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