二人の秘密
「持ってきた」
「……あ、うん。……ありがとう」
あれから結局服は着ずに現実逃避をしていた俺は、リアが持ってきてくれた水を受け取りながら、礼を言った。
そしてそのままその水を飲み干して、二日酔いの頭でこれからどうしようかを考えた。
……逃げる、のは無理そうだ。さっきから思ってたけど、全然リアは昨日の酔いが残ってる様子が無い。
昨日、あの度数が強い酒を直飲みしてたにも関わらず、少しの酔いも残ってないのはまじでおかしいだろ。正直、意味が分からない。
……まぁ、Sランク冒険者の化け物を俺なんかが理解なんて出来るわけないんだけどな。
それに、もし仮にリアに酔いが残ってたとして、逃げられる状況だったとしても、俺は逃げられない。……矛盾してるのは分かってるけど、さっきリアは責任取らずに逃げたら怒るとか言ってたし、逃げられる訳なくないか?
リアの……Sランク冒険者の怒りなんて、マジでどうなるか想像もつかないし。
最初俺がヘレナの家から逃げようとした時だって怒ってた様子だったけど、あの時とは話が違いすぎる。
だって、初めてを奪ってるんだもん。……いや、俺が奪われた立場ではあると思うがな? 女性と男性とじゃその価値が違うと思うし。
「と、取り敢えず服、着ようかな……」
「うん。見てる」
……俺の着替えなんて見てて何が楽しいのかは知らないが、特に何も答えることなく、俺は服を着ていく。
そして、服を着ているうちに、一つだけリアに言っておかなければならないことを思い出した。
「リア、その、今日のことは、二人の秘密ってことでいい、よな?」
「今日のことは誰にも言わないでくれ」最初はそんな感じで適当に言おうと思ってたんだけど、もし仮に、本当に仮にだけど、リアが俺のことを好きなんだとしたら、二人だけの秘密とか気持ち悪いことを言っておいた方が上手くいくと思ったから、そう言った。
「ヘレナとアリーシャにも?」
「……あぁ」
むしろその二人には絶対言わないでくれ。
俺がものすごく節操のない人間だと思われてしまいそうだし。……いや、別に思われてもいいのか? それで俺のことを最低だと罵って、もう関わらないでいて……はくれないな。……だって俺、公爵家が抱えてるSランク冒険者に手を出しちゃってるんだもん。
……何度も言うけど、俺が襲われた側だけどな!?
「……でも、二人には言っときたい」
「理由は?」
「それは……」
正直に言うと、理由くらい何となく分かるぞ? あれだろ? 公爵家に抱えられてるSランク冒険者なんだから、出来れば正直に言いたいって話だろ? ……見てた感じ、敬語も使ってないし、二人は友達って感じだったから、単純に友達に隠し事はしたくないって理由の可能性もあるけどな。
「……分かった。……でも、嘘は言いたくないから、もし、なにか聞かれたら黙ってるだけでいい?」
「あぁ、それでいい。ありがとな」
「うん」
本当の事を言われるよりは、百倍マシだ。
それに、わざわざ昨日のことなんて聞いてこないだろうしな。
なんなら、今日あの二人に合わなかったら、昨日のことなんて絶対聞いてこないと思う。
無いとは思うけど、一応家まで来る可能性を考慮して、二人が来る前に今日は外に出よう。
「あ」
そう思っていると、突然、リアがそんな声を上げた。
「どうした?」
「……二人が来た」
「……ごめん、何て?」
「だから、二人が来た」
……自分たちでは気にならないけど、昨日はここから逃げる予定だったし、帰ってきてすぐに酒を飲んだから、お互い風呂に入っていない。
そして、俺たちはベッドの中で一夜を共にしてしまっている。……当然、かなり臭うはずだ。
「……リア、居留守を使おう」
「え、で、でも……」
「俺たち、絶対臭うぞ? リアが黙ってても、一発でバレる。大丈夫だ。バレなかったら何にも問題は無い」
俺が二人を誘拐した件だって、まだバレてないから、問題になってないしな。……いや、問題にはなってるけど、俺が犯人だとはバレてないからな。
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