記憶があるタイプ

「……頭、痛ぇ」


 そう呟きながらベッドから降りようとしたところで、服を着ていないリアが隣に眠っていることに気がついた。

 そしてその瞬間、思い出した。……昨日、犯してしまった自分の過ちを。

 ……最悪だ。……俺、どれだけ酒に酔っても、次の日にはちゃんと記憶があるタイプなんだよ。だから、思い出してしまった。

 ……もし、今ここで思い出さなかったら、リアが眠ってる今のうちに、ここから逃げ出したのに。

 いくらSランク冒険者のリアでも、昨日あれだけ度数の強い酒を飲んだんだから、まだ酔いが残ってて、起きないと思うから、今が絶好のチャンスなのに、逃げられない。……リアの方から襲ってきたとはいえ、酒を飲ませたのは俺だし、マジでどうしよう。

 リアが起きた時、もしもリアが俺と同じで、酒に酔った時の記憶があるタイプだったら、俺、殺されるんじゃないか? いやまじで。多分……いや、確実に、この血を見るに、リアも初めてだもん! 


「ん……」


 せめて少しでもリアに殺される確率を低くするために、水でも用意しておこうと思ったんだが、リアの目が覚めてしまって、ぱっちりと目が合った。


 やばい。気まずい。……どうする? 記憶が無いと高を括って、昨日と同じ感じで喋りかけるか? ……いやいやいやいや、仮に記憶が無かったとして、服を着てないことはどう説明するんだよ!? リアだけなら酒に酔っていきなり脱ぎ出したんだよ、とか言えるけど、俺も下着以外は着てないんだよ。


「…………えっち」


 俺がどうしようかと思ってリアのことをジロジロ見ていると、耳の先まで顔を真っ赤にしたリアは小さくそう言ってきた。


「わ、悪い」


 謝罪の言葉を口にした俺は、これはどっちなのかを考える。

 記憶があるのか、無いのか。

 

「……だから、お酒はダメって言おうとしたのに」


 布団で自分の体を隠しながら、リアはそう言ってきた。

 ……余計なことを言わせずに酒を飲ませようとしたことが仇になったのかよ。

 と言うか、これ、覚えてそうだ。昨日のこと。うん。終わった。……取り敢えず、土下座から入るか?


「……責任取らずに逃げたら、怒るから」


 俺がベッドから降りて土下座をしようとすると、逃げようとしてると思ったのか、リアは俺の腕を掴みながら、そう言ってきた。

 

「せ、責任って……り、リアの方から、襲ってきたんだろ? むしろ俺は、被害者だと思うんだけど」

「……お酒、ダメって言おうとした」


 ……そうだった。

 い、いや、そうだけど、ここで流されたら、俺マジでリアと結婚させられるぞ!?


「ま、待て、それはそう、なんだがな? ……リアもほんとは好きな人としたかっただろ? ……だから、お互い無かったことにしないか?」


 かなり最低なことを言っているのかもしれないが、一応襲われたのは俺なんだし、大丈夫なはず。


「……大丈夫。好きだから」

「? 何が?」

「……あなたのこと」

「???」


 何顔を赤くしてそんなことを言ってきてるんだよ。

 いや、おかしいだろ。……どこに俺を好きになる要素があったんだよ。絶対おかしい。……過ちを犯してしまったから、無理やり俺を好きになろうとしてるのか?


「…………あなたも、好きって言ってくれた」


 ……言ってないけど? 酒に酔ってた昨日ですら、言ってないけど? 

 そう思いはするけど、リアの様子を見るに、冗談で言ってるようには見えない。


「……もしかして、嘘、だった?」


 俺が何も言わなかったからか、リアは掴んでいる俺の腕を俺が痛いくらいに強く握ってきた。

 

「そ、そんな訳ない、だろ?」

「……良かった。……これから、よろしく。服、着るね」


 嘘も何も記憶に無いのに、咄嗟にそんな訳ないだなんて言っちまった……

 

「……見てもいいけど、恥ずかしい」


 まだ何か言い訳ができるんじゃないかと思ってリアのことを見つめていると、恥ずかしそうにそう言ってきた。

 違う。確かにリアは可愛いと思うけど、今は違うんだよ。別にリアの肌を見たいわけじゃないんだよ。

 

「……あなたが着替える時、私も見るから」


 それは好きにしてくれたらいいよ。

 俺は男だし、下着は履いてるんだから、見られたところでそこまで恥ずかしくは無いから。

 

「……水、持ってくるね」

「あ、うん」

 

 何も言い訳が思いつかず、ボケーっとリアの着替える様子を見ていると、もう着替え終わってしまったみたいで、真っ赤な顔でリアはそう言って、寝室を出ていってしまった。


 ……今のうちに着替えたら、怒るかな? ……俺が着替える時も見るみたいなことを言ってたし。

 リアが出て行くのを見送った俺は、そんなことを考えて、現実逃避をしていた。

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