乾杯

「よし、つまみも手に入ったし、帰るか」

「……うん。……今更だけど、どれくらい、飲むの?」


 できるのなら、全部飲ませたい。

 ドラゴンだって酔っ払ってしまうなんて言われてる酒だ。普通の人間がそんなに飲んだら危険かもしれないが、相手はSランク冒険者の化け物だからな。仮に全部飲ませたとしても、二日酔いくらいで済むだろう。酒に弱いとはいえ、な。


「リア、明日の予定は?」

「……あなたの見張り」

「だったらいっぱい飲もう」

「……でも、私はーー」

「ほら、さっさと行くぞ」


 また、何かを言おうとしているリアの言葉を遮って、俺はそう言いながら早歩きで貰った家に向かった。

 少し拗ねたような顔をしながらも、リアは当然のように俺の隣を歩いて、着いてくる。




「よし、着いたな」

「……うん。……どうなっても、知らないから」


 俺の呟きにリアは頷くと、小声で何かを言っていたが、敢えて聞こえないようにしながら、家の中に入った。

 そしてそのまま、リビングに向かった俺は、両手に持っていた酒を机の上に置いた。

 リアも俺と同じように、持ってもらっていた酒とつまみを机に置いていた。


 それを確認した俺は、酒を入れるような大きなコップを持って、机の前のソファに座った。

 すると、リアは無言で俺の隣に腰を下ろしてきた。

 いっぱい飲ませられるように俺から隣に座るように促そうと思ってたんだが、自分から座ってきてくれるなんてラッキーだな。


「……割らないの?」

「大丈夫だろ」

「……でもーー」

「まぁまぁまぁ、おっとっとっと、まずは1杯どうぞどうぞ」


 俺は会社の同僚と飲む時のおっさんみたいなことを言って、リアの前に酒を置いた。

 

「……あなたは?」

「ん? あ、あぁ、そうだな」


 くそ、このままリアが飲んでくれてたら、そのままリアだけに飲ませられたかもしれないのに。

 そう思いながら、仕方なく俺は自分のコップにも酒を注いだ。……コップの体積の半分にも満たない量を。


「……少ない」

「お、俺はちょっとずつ飲んでいくんだよ。ほ、ほら、乾杯」


 訝しげな目をしているリアと無理やり乾杯をして、二人同時に一気に酒を仰いだ。

 これ、マジか。……俺、一応酒には強い方だと思ってたのに、一気に頭がクラクラして、幸福感が押し寄せてきた。


 ……少ししか飲んでない俺ですらこれなんだから、リアなんて、マジでやばいんじゃないか? 

 そう思って、リアの顔をチラッ、とこっそり覗き見たんだが、リアの顔色に変化は無かった。

 は? 嘘だろ……酒、苦手なんじゃないのかよ。

 

 俺が困惑していると、リアは自分のコップと俺のコップに酒を注いできた。

 

「早く、飲も?」


 いや、マジで嘘だろ? ……今俺がこうやって思考出来てるのも、結構ギリギリなんだぞ? これ以上飲んだら、完全に酔っ払っちまう。

 ……何とかして、リアだけに飲ませないと。


「り、リアの一気に酒を仰る姿、かっこいいなぁ」

「……ふーん」


 俺がわざとらしくそう言うと、リアは素っ気ない返事をしながらも、また、一気に酒を仰いだ。

 すると、流石のリアも酔っ払ってきたのか、顔を赤らめながら、俺の肩にもたれかかってきた。


 俺はその隙を見逃さず、直ぐにリアのコップに酒を注いで、またリアに仰るように促した。

 

「普段は可愛いのに飲む姿はかっこいい〜」


 かなり適当な言葉だけど、酔っ払ってる今のリアなら、こんな感じでもいいはずだ。

 

「んへへ……ほんとぉ?」


 よし! めっちゃ酔っ払ってる!


「あぁ、ほんとだよ」


 思わず笑みがこぼれそうになるのを我慢しながら、俺がそう言うと、リアはコップの方じゃなく、酒瓶の方を手に持って、思いっきりそれを飲み干した。


「は?」


 マジか。……いや、俺にとっては好都合だから、別にいいんだけどさ。

 ……もうこれ、絶対意識保てないだろ。

 そう思った俺は、ソファから立ち上がった……瞬間、リアにものすごい力で服を掴まれた。


「あっ、い、いや、違うぞ? ち、ちょっとトイレに行こうと思っーー」


 逃げようとしたのがバレたのかと思ってそんな言い訳をしようとしている俺に向かって、リアは酒を口に含んでから、俺にキスをしてきた。

 そしてそのまま、酒を俺の口の中に流し込んできやがった。


 こ、こいつ、やばい。マジでやめろ! 

 そう声を出して言いたいけど、とんでもない力で俺の体を押えて、離れられない。


「ぷはっ……お、まぇ、まっーー」


 呂律が回らない口で何とか文句を言おうとするも、もう一度酒を口に含んだリアの唇に口を塞がれてしまった。

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