俺のせいじゃない

「はい、頑張りますね」

「直ぐに追いついてあげるから!」


 追いつくどころか、直ぐに追い抜くだろうけどな。

 まぁ、やる気になってるのはいい事だと思うし、俺は何も言わないけど。


「失礼します」

 

 そう思っていると、急に扉がノックされて、そのまま一人のメイドが入ってきた。

 体に良さそうな朝食……であってるよな。朝食を運んできながら。


「朝食をお持ちしましたが、どう致しましょうか」


 あ、朝食で合ってた。

 ちょうど腹が減ってきてるし、遠慮なくもらおうかな。


「食べるよ」

「かしこまりました」


 俺がそう言うと、メイドの人は直ぐに俺の目の前に朝食を持ってきてくれて、そのまま恭しく頭を下げながら、部屋を出ていった。


「ご自分で食べられますか? もし無理そうなら、私がいくらでも食べさせますけど」

「いや、自分で食えるから」

「……そうですか」


 さっきもう平気だって言ったのに、いきなりそんなことを聞いてくるアリーシャにそう返しながら、俺は朝食を早速口に入れた。……何故かアリーシャが残念そうなのが少し気になるけど、今は朝食の方が大事だし、それを無視しながら。


「あ、そう言えばなんだけどさ」

「ん、なんだ?」


 そうして朝食を食べていると、今度はヘレナがいきなりそう言って、俺の方を見てきた。

 ……いや、俺の方はずっと見てたな。一応言っとくけど、もう逃げたりしないからな? ……そもそも出来ないし。


「あんたが、私たちを守ってくれる前、私の事で知りたいことが無いかって聞いたじゃない?」

「……そうだな」

「あの時、あんた、なんて聞こうとしてたの? ……その、あんたは、私たちのことをまた、守ってくれたし、特別に、ほんとになんでも答えてあげるわよ?」


 ヘレナは照れたような仕草をしながら、俺にそう言ってきた。

 ……いや、言えるわけないだろ。……まさか下着の色を聞こうとしてたなんて。

 確かに、あの時は言おうとしてたけど、あの時とは、少し状況が違うだろ。

 流石に俺は今ここでそんなことを聞けるほど、勇者では無い。……俺が主人公だったなら、もしかしたら聞けたかもしれないけど、生憎と俺は即殺モブなんだ。聞けるわけが無い。


「……好きな人とか、いるのか?」


 あの時俺が何かを言おうとしたことはバレてるんだ。だったら、ここで何も聞かない方が何かやましいことを聞こうとしてたって思われそうだし、俺ははそう聞いた。

 実際、気になるしな。

 ヘレナはヒロインなんだから、当然好きになるのは主人公だ。

 ただ、俺が主人公との出会いの場を潰してるから、もしかしたら主人公以外の人を好きになってるんじゃないかと思って、気になってたんだよ。


「は? す、好きって……な、なんで、あんたが、わ、私の好きな人、なんて気にするのよ!」

「そりゃ、気になるからな」

「私も、気になりますか?」


 大袈裟な反応をするヘレナを見て、これ、好きな人がいるんじゃないか? と思っていると、アリーシャが不安そうに、そう聞いてきた。


「気になるな」


 アリーシャもヘレナと同じヒロインだからな。

 気にならないはずがないだろ。

 

「ッ、い、いますよ。近くに」


 は? 近く? え、アリーシャの好きな人って、もう身近にいるのか? ……じゃあ、絶対主人公じゃないじゃん。

 マジか。……ま、まぁ、元から好きな人がいたってことだな。うん。俺のせいじゃない。主人公以外の人を好きになってるのは、俺のせいじゃない。

 

「わ、私も……いる、わよ。……近くに」


 ヘレナもかよ。……ごめんな、主人公くん。もうヒロイン達は君に興味が無いみたいだ。

 で、でも、俺のせいじゃないからな。うん。

 どうせ会うこともないんだし、気にしないでおこう。

 

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