何を言ってるんだ?

 どこだ、ここ。

 なんで俺、こんなところで寝て……いや、違う。確か、俺は首を刺されて、血が止まらなくなって意識が保てなくなって、倒れたんだ。


 そう思った瞬間、俺は直ぐに首元に手を当てて、首の傷がどうなってるのかを確認しようとしたんだが、腕が重くて、確認することは出来なかった。

 ……最初は、血が抜けすぎてて、力が入らないのかと思ったが、直ぐにそれは違うと分かった。

 だって、ヘレナとアリーシャが俺の腕の上にうつ伏せになって、すぅすぅと小さく寝息を立てながら、眠っていたから。

 ……どういう状況だよ。一応俺、怪我人だよな。


 ……外が暗い。……いや、少し明るくなってきてるな。まさか、あれか? 俺のことを心配して、夜遅くまで俺のそばにいて、起きてた、とか? ……無いな。アリーシャはともかく、ヘレナは、そういうタイプじゃないだろ。

 アリーシャだって、余程大事な人とかじゃない限り、そんなことはしないだろうし。


 そう思いながら、俺はもう片方の手で、切られたはずの首元を触って、傷を確かめようとしたんだが、まるで最初から何も無かったかのように、傷なんてものは無かった。

 ……そういえば、最後にアリーシャが治癒士を呼んでくるみたいなことを言ってたな。

 流石、公爵家お抱えの治癒士だ。綺麗さっぱり傷が無くなってる。

 それに、この感じ、血も少し回復してるんじゃないか? 凄いな。

 

「んぅ……あっ、目が覚めたんですか!?」


 そうしていると、少し体が動いてしまっていたからか、アリーシャを起こしてしまったみたいで、目を覚ますなり、声を荒らげながらそう言ってきた。


「ん……あっ、も、もう大丈夫なの!?」


 アリーシャが声を荒らげるから、ヘレナも起きてしまったみたいで、体を起こしながら、俺の方を心配そうに見つめながらそう言ってきた。

 ……体にだるさは無いし、首の痛みも当然消えてる。……強いて言うなら、眠い? ……いや、こんなに寝てたんだし、これは寝起き特有のやつだな。直ぐに目なんて覚めるさ。

 

「あぁ、もう大丈夫だ。ありがとな」


 どういうつもりかは知らないが、そばに居てくれたのは事実だし、ちゃんとお礼は言っておかないとな。


「わ、私は、私達のせいであんたが死んじゃったら、寝覚めが悪いから、そばにいてあげただけよ!」

「私は純粋にあなたが心配でしたから」

「あ、アリーシャ! ……わ、私だって、あんたのこと、心配、してたんだから」


 ……? 二人は何を言ってるんだ? 心配ってのは、まぁ、本心かは知らんが、普通に嬉しい。

 ただ、私達のせい、とは? 俺は自分の身を守るのに必死だったし、あいつの狙いも元から俺だ。

 二人のせいっていう意味がわからないんだが。

 あ、公爵家の警備を強化してなかった話をしてるのか? だったら、それは二人のせいじゃないだろ。


「二人のせいじゃないだろ」


 悪いのは公爵と、帰ってくるのが遅い公爵家が抱えてるSランク冒険者だよ。

 ……後、油断してた俺かな。

 

「……私、強く、なるから」

「……私も、強くなります。あなたの隣に立てるように、あなたに守られてばかりにならないように」

「わ、私も……あんたの隣に立つ、から」


 ……いや、守られてばかりってなんだよ。……俺が二人を守ったことなんて、一度……いや、あれは二人がそう思ってるだけで実際には違うし、一度もないな。

 ともかく、一度は守ったってことになってるんだし、それはいいけど、ばかりって、一度しか守ってないと思うんだけど。

 ……その一度も本当は違うし。

 そもそも、俺の隣に立つってなんだよ。……もうこんなの、ほぼ告白みたいなもんだけど、二人は主人公の、ヒロインだし、それはありえないと思う。

 だったら、多分、強さ的なことを言ってるんだろうな。

 二人の中じゃ、俺はめちゃくちゃ強いってことになってるし。


「まぁ、頑張れ」


 俺は物語で二人が強くなる未来も知ってるし、適当にそう言っておいた。

 どうせ直ぐに、俺なんかより強くなるから。

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