なんでもっと警備を強化しておかなかったんだよ!
「そんなに言うんだったら、下ーー」
下着の色を教えてくれよ。そう言おうとした瞬間、俺の背後から極わずかな殺気を感じた。
その瞬間、俺は直ぐに馬鹿なことを言おうとしていた口を閉じて、直ぐに座っている状態から立ち上がってあの殺気の持ち主から離れようとしたんだが、アリーシャとヘレナにくっつかれてるのを忘れてて、俺に迫ってきていたナイフが首筋にかすってしまった。
最悪だ。……狙いが俺だったから、俺だけ離れようとしたのに、完全に二人に捕まえられてる状態ってことを忘れてた。
そう思いながら、俺の事を殺そうとした相手の方を睨むように見つめる。
……確実に、裏切った俺を消しにきた暗殺者、だよな。……ただ、俺を消しに来たやつにしては、実力が足りてない気がする。
「だ、大丈夫!?」
「大丈夫ですか!?」
「……少し、離れてろ」
そう言うと、二人は泣きそうな顔をしながらも、俺の言う通り、離れてくれた。
こいつの狙いは俺なんだが、二人はそんなこと知らないしな。こんな反応になるのも仕方ないか。
……切られた首の傷が痛い。……ただ、毒は塗られてないみたいだな。……なんでだ? もし、毒が塗られていたなら、あの一撃で俺なんかとっくに死んでいたはずだ。
……いや、今はラッキーと思っとくか。
そんなことよりも、俺はこの公爵家の警備がどうなってるのかが気になるんだが。
俺が言うのもどうかと思うけど、一度、娘が誘拐されてるんだぞ? なんでもっと警備を強化しておかなかったんだよ。また、同じ組織の奴が侵入してきてるぞ!?
……一人目は俺だけどさ。
いや、考えるのと、心の中で公爵に対して悪態をつくのは後だな。
今は、こいつをどうにかすることが先だ。
余計なことを言われても困るから、こいつに向かって特に話しかけることはしない。
俺は無言のまま、アリーシャとヘレナを襲った誘拐犯に仕立てあげた奴にしたように、初見殺しスキルで後ろに回って、初見殺しスキルで気絶させた。……させれてしまった。
……俺のスキルは、ある程度の実力がある知性のある相手には効くこと自体が珍しいスキルだ。……俺はこの初見殺しスキルがあるから、公爵家の娘だって誘拐出来たんだ。もし、それがなかったら、俺はこの公爵家に侵入すらできる気がしない。
そんな公爵家に、俺に容易くやられる程度のこいつが一人で侵入できるのか?
……どれだけ神経を張り巡らせても、こいつ以外に怪しい雰囲気を纏った気配は無い。……俺の考えすぎか?
「お、終わったなら、早く、早く手当てしないと!」
「わ、私、お父様にこのことを話して、治癒士を呼んできます!」
二人は取り乱したようにそう言って、アリーシャは俺の返事を聞く前に、治癒士を呼びに行ったみたいだ。
大袈裟だな。
この程度の傷で、そこまで騒がなくてーー
「あ、れ、意識が……」
そこまで騒がなくてもいいだろ。そう、考えようとした瞬間、俺はその場にバタりと倒れ込んでしまった。
ヘレナは必死に俺の事を支えようとしてくれてたけど、残念ながら、ヘレナの力じゃ支えられなかったみたいだ。
と言うか、倒れて気がついたけど、俺の首から出てる血で血溜まりが出来上がってきてるんだけど。……マジ、かよ。こんな軽い傷、だぞ。……なんで、こんなに血が……いや、そもそも、なんで止まってないんだよ。
「ま、待って、やだ、やだっ、死なないで……もう、守ってくれなくていいから、一緒にいてくれるだけでいいから、死なないでっ」
やばい。ヘレナの声も、もう、なんて言ってるのか分からなくなってきたんだが。
油断、したな。……これ、あいつのスキルか? 切った傷口から血が止まらない的な。……だから、毒を塗ってなかったのか。こんなスキルがあるなら、毒なんてなくたって、別にいいもんな。……毒の方が、足跡がつきやすいだろうし。
最後にそんなことを考えながら、俺の意識は遠のいていった。
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