知られたくないことくらいあるだろ?
「は、はぁ?!」
あ、そうだよな。正直、ヘレナなら騙されてくれるんじゃないかなぁ? とか考えてた俺が馬鹿だったよな。
「そ、そういうことなら、早く言いなさいよ!」
流石のヘレナも、こんな嘘に騙される訳……ん? あれ? もしかして、いや、もしかしなくても、騙されてる……のか?
正直、呪いっていうのも、あながち間違ってはないとは思うけど、普通、信じるか? 少なくとも、俺だったら、よっぽど信頼してる相手の話だったとしても、信じるか怪しいぞ。
「そう、だったんですね。……そんな状況で、私たちのことを、助けてくれてたんですね」
……そりゃ、そういうことにしとかないと、俺が殺されるからな。
と言うか、アリーシャまで騙されてるのかよ。
「そう、だな」
全然違うけど、なんか、勝手に都合のいいように解釈してくれてるから、俺は頷いておいた。
「名前以外の記憶はあるのよね?」
「あぁ、名前だけ、思い出せないんだよ」
「でしたら、私たちがお父様に頼んで、あなたの事を調べてもらいましょう。そうすれば、直ぐに名前くらい出てくると思いますよ」
「い、いや、それは……やめとかないか?」
そんなことをされたら、俺がお前たちを誘拐した犯人だってことがバレるだろうが! ……証拠を残したつもりはないし、偽装工作だって、きっちりしてるはずだが、少しでもバレる可能性があるなら、嫌に決まってる。
「なんでよ!」
「……名前が無いことをそこまで不便に感じてないから、だな」
実際、前世はともかくとして、即殺モブの俺としては、ずっと名前なんてない状態で生きてきたんだ。
今更不便になんて感じるはずがないしな。
「で、でもっ、あんたがそうでも、私は知りたいのよ! あんたのこと、名前で、呼びたいし……」
「私も、あなたの事を名前で呼んでみたいですね」
なんでだよ! 別に今まで通り、あんたとかあなたでいいだろ。
それで通じてるんだから、何一つとして不便なことなんてないだろ。
「いや、でもな? 調べられるのは、やっぱり恥ずかしいっていうか、な?」
「別に私はあんたがどんな人生を送っていようが、笑ったりしないわよ」
……だろうな。もし、俺の過去が知られれば、笑うというより、怒るだろうからな。
「そういう問題じゃないんだ」
「でしたら、どういう問題なのでしょうか?」
「……誰にだって、知られたくないことくらい、あるだろ?」
流石にこういっておけば、大丈夫だろう。
この世界にプライバシーの侵害なんて言葉は無いが、一応俺は恩人ってことになってるんだ。そんな恩人の俺から、ここまで言われたら、ヘレナとアリーシャも諦めてくれるだろ。
それに、この二人にだって、知られたくないことくらいあるだろうから、分かってくれるはずだ。
「? 私はあなたになら、何を知られても全く問題ありませんが」
「わ、私だって、な、何を知られても、平気よ!」
そう思っていたんだが、アリーシャは何を当たり前のことを? といった感じでそう言ってきて、ヘレナはそれに対抗心を燃やしたのか、顔を赤らめながら、そんなことを言ってきた。
……マジで何言ってんだよ。
絶対あるだろ。知られたくないこと。一番わかりやすく例をあげるなら、ちょっとあれかもだけど、今履いてる下着の色とか、絶対知られたくないだろ。
……まぁ、これは知られたくないの方向性が違うかもしれないが。
「ほ、ほら! な、何か私のことで、知りたいこととか無いの? い、今なら、なんでも答えてあげるわよ?」
もうなんて言えば諦めてくれるのかが全く分からないくて、俺なりに一生懸命考えていたんだが、突然、ヘレナが恥ずかしがりながら、そう言ってきた。
……もう、ほんとに下着の色とか聞いてやろうかな。……これを言ってきたのがアリーシャだったら、少し抵抗があったが、ヘレナなら、なんか大丈夫な気がする。
そう言えば、絶対断るはずだし、ヘレナにも知られたくないことがあるじゃないか! と言えるしな。……ちょっと大人気ないかもしれないが。
「そんなに言うんだったら、下ーー」
下着の色を教えてくれよ。そう言おうとした瞬間、俺の背後から極わずかな殺気を感じた。
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