超、要らん

 ……いや、なんでこの二人は俺にくっついて座ってきてるんだよ。

 ただでさえ、手を繋いで部屋に入るっていう失礼なことをしでかしたのに、そんなにくっついて座ってくるなんて、絶対、おかしいだろ。

 百歩譲って、今俺の目の前にいるのは、アリーシャの親なんだから、アリーシャの方は、まだ分か……らないけど、分かる。ただ、ヘレナの方はなんなんだよ!? アリーシャより、ヘレナがこの公爵様に失礼なことをする方が、まずいだろ。


「あ、アリーシャ?」


 俺がそう思っていると、公爵様は引きつった笑みを浮かべながら、そう言っていた。

 ……ヘレナの方には触れないのか? ……いや、触れられないなら触れられないでいいけどさ。……やっぱり良くないな。触れてもらわないと、ヘレナが離れてくれないんだが。


「はい、どうか致しましたか? お父様」

「い、いや、なんでもないよ」


 ……この公爵様、妻の尻に敷かれてるって言うより、身内の女性の尻に敷かれてるのか?

 ……いや、なんかごめんなさい。

 別に、俺が悪いことをしてる訳では無いんだけどさ。なんか、ごめん。……でも、多分あれだぞ? この二人は俺が逃げないように、こうしてるだけだと思うぞ? ……言葉遣いに自信が無いから、言わないけど。


「さ、さて、遅くなってしまったが、娘と娘の友人を助けてくれて、ありがとうございました。これはほんの気持ちです」


 そう思っていると、公爵様は何事も無かったかのように、そう言って、俺の目の前にジャラジャラと音がする綺麗な箱を俺の前に置いてきた。

 ……金、だよな。……あれ? 俺、この公爵領から逃げたら、何をして暮らしていこうかとか考えてたけど、この音の感じ……多分、少しくらいの贅沢をしても、一生働かずに暮らしていけそうだぞ? 

 

「い、いえ、助けられたのはたまたまだ……ですし、こんなもの、貰えない……ですよ」


 貰いたい。本当は、めちゃくちゃ貰いたい。

 でも、マッチポンプなんだよなぁ。……俺が誘拐したのに、俺が助けた振りをして金を貰うなんて、最低すぎる。

 ……いや、裏組織に所属してたんだし、最低なことなんて何個かしてきてるんだが、前世の記憶が戻った今は、そういう行為に罪悪感くらいあるんだよ。


「あんたがいい人なのは分かってるけど、貰わない方が失礼よ」


 だから、断ったんだが、横に座ってるヘレナが小声でそう耳打ちしてきた。

 ……俺は全然いい人では無いんだけど、貰わない方が失礼? ……あー、あれか? 公爵なんだから、形に残るお礼が出来ないと、不味いって話か? ……確かに、そういうのは昔、まだ俺の記憶が戻ってなくて、裏組織に所属していた頃、先輩に聞いた事があったな。……なんでそんな話を聞いたのかは忘れたけど。


「そう言わずに、是非貰ってください」

「……わ、分かりました。そこまで言うのなら、貰っておく……ますね」

 

 俺は渋々って感じで、頷いて、その箱を貰うことにした。

 よしっ! たまにはヘレナもいい仕事をするな。ヘレナがそう言ってくれなかったら、俺はそんなこと知らなかった……というより、思い出せなかったし、多分普通に断ってたと思うから。

 これで金も手に入ったし、後はさっさとこの街から離れるだけだな。

 

「はい。ありがとうございます。……それとですが、お礼はもちろん、それだけではございません。私が所持している家を一つ、是非受け取ってください」


 ……要らん。超、要らん。

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