どうせあと数時間の仲なんだ
逃げる決意をしたのはいいものの、今回は、ほんとに逃げる隙なんて出来そうにないな。
……そもそも、馬車の外でそんな隙が出来たとしても、逃げるには、アリーシャとヘレナに捕まえられてるこの状況をどうにかしないといけないんだけど……何度離れてくれって言っても、全然離れてくれないんだよな。
「なぁ、本当にもう、逃げられないからさ、離れてくれないか?」
「嫌って言ってるでしょ。どうせ、また逃げようとしてるんだから。……離れて欲しいなら、少しは私たちに信用されるように頑張りなさいよ」
予想通りとはいえ、断られたな。
……ただ、やっぱり信用はされてないのか。……当たり前のことなんだが、それをちゃんと言葉として聞けたのはいい事だな。
なんか、やたらと距離感が近いし、ちょっと好かれてるかも、なんて考えそうになったけど、違うなら良かった。
これなら、適当に公爵家でボロを出さないように話をすれば、直ぐに逃げられる……どころか、普通にもうどこにでも行っていいぞって解放してくれるかも。
「頑張るよ」
微塵もそんなことは考えずに、俺はそう言った。
もし、ほんとに俺が頑張って、信用なんてされたら、一応この二人の中では俺は強いってことになってるし、部下にしたいなんて言われたら、たまったものじゃないしな。
いつバレるかも分からない爆弾を抱えたまま公爵家に仕えるなんて、考えただけでも恐ろしい。
絶対、信用なんかされたらダメだ。
「本気で、頑張ろうと思ってますか?」
「……当たり前だろ」
妙に感の鋭いアリーシャに俺はそう返した。
どうせ、後数時間の仲なんだ。多少疑われようが、どうでもいい。
そう考えながら、チラッと外を見ると、もうすぐ、公爵家に着きそうだった。
……憂鬱だ。本当に、憂鬱だ。
「時間的に、もう少しで着きそうだから、離れてくれるか?」
捕まえられてるだけっていうのは分かるし、流石に無いとは思うけど、この状態で公爵家に着いて、馬車の外になんか出たら、どうなるか分かったもんじゃないしな。一応、だ。
「だから、嫌って言ってるでしょ」
「私も、離れませんよ」
……いや、嫌とかじゃないだろ。
て言うか、ヘレナの方はともかくとして、アリーシャはなんで嫌なんだよ。
……取り敢えず、ヘレナの方にだけでも離れてもらおうか。
「いいのか? このまま出ていったら、変な勘違い、されるかもしれないぞ」
ヘレナなら、これで離れてくれるはずだ。原作知識が生きたな。
俺なんかと勘違いされたくないだろうし。
アリーシャも、これで離れてくれたら楽でいいんだけど。
「な、なんで私があんたなんかと!」
そう思っていると、案の定、ヘレナはそう言って、俺から離れてくれた。
一度、こんな感じの事で離れてくれたことがあったからな。いくら馬鹿な俺でもそんな最近の事は覚えてるし。……まぁ、あの時と同じで、アリーシャは離れてくれなかったけど。
「私は勘違いされてもいいので、離れませんよ」
「は、はぁ!? だ、だったら、私も勘違いされてもいいわよ!」
少なくとも、ヘレナは離れてくれたし、アリーシャをどうしようかと考えていると、アリーシャはまた、余計なことを言って、また、ヘレナは無駄な対抗意識を燃やしたのか、せっかく離れてくれたヘレナは、俺を捕まえるために、抱きついてきた。
そして、ちょうどその瞬間、馬車が止まった。……止まってしまった。
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