感動(?)の再会
「それでは、中をご覧になってください」
外からは中の様子が見えないから、公爵家部下の男はそう言って、俺に扉を開けるように促してきた。
そしてそのまま、男は一歩後ろに下がった。
……なんで、下がったんだ? ……よく分からないけど、まぁいいか。
さっさと中を見て、やっぱり歩かせて欲しいって言えばいいだけだしな。
そう思いながら、俺は軽い気持ちで扉を開けた。
そして、開けた瞬間に思った。
あれ、今なら、公爵家部下の男達も少し離れてるし、逃げられるんじゃないか? と。
ただ、そんな俺の思いは次の瞬間、無惨にも、意味の無い行為だと思い知らされることになった。
「あ、あんた、この前はよくも勝手に逃げてくれたわね! もう、絶対逃がさないんだから!」
「……私も、もう逃がしません」
何故なら、その瞬間、ヘレナとアリーシャがそう言って、俺に抱きついてきたから。
いや、は? いや、え? 待て、なんで、ここに居る? おかしいだろ。公爵家の娘だぞ。……しかも、つい先日誘拐されそうになったばかりの娘二人だぞ?! なんで、居るんだよ。
俺はそんな思いを込めながら、二人に抱きつかれながらも後ろを振り向き、公爵家部下の男に向かってそう目で訴えた。
「言ったでしょう。お嬢様お二人がお待ちだと」
「そんなこと……」
言ってた。……確かに、言ってた。……でも、あれは、違うだろ!? まさか、馬車の中で待ってるとは思わないだろうが。
しかもあの時は、旦那様たちと、って言ってたんだから、普通にその旦那様……公爵家の当主と一緒に家で待ってるんだと思うだろうが!
「旦那様たちはもちろんとして、私どもも止めたのですよ? ただ、私たちが行かないと、絶対にあなたはまた逃げると聞かないものでして……旦那様たちが渋々であっても納得させられてしまえば、当然、私たちには拒否権はありませんので」
……いや、それはそうなんだろうが。
だったら、むしろ、なんでその旦那様たちは許可を出したんだよ! 親だろ? 心配だろ? 普通、許可なんて出さないだろうが。
「どうやって、許可を貰った……んですか?」
普通に考えたら、許可なんて出すはずがないんだ。
だから、俺はそう聞いた。
あわよくば、それを答えてくれる時に俺から離れてくれないかなぁ、と思いながら。
「お母様に頼めば直ぐに了承が貰えましたよ?」
「私も」
すると、俺から離れる気配を微塵も見せることなく、二人はそう言ってきた。
……マジかよ。どっちの当主様も尻に敷かれてるのかよ。……多分、そういうことだろ、これ。
……いや、例えそうだったとしても、同じ親だ。そう簡単に許可を出すとは思えないんだが。
「そんなことより、何故、私たちからお逃げになったのでしょうか?」
俺が理由を考えようとしていると、アリーシャが背筋の凍るような声色で、そう言ってきた。
なんだ、この感じ。……アリーシャと俺の実力なんて、断言出来るほどに、少なくとも今は俺の方が上だ。
なのに、なんだ、この背筋が凍るような感じは。
……俺は、裏組織に所属していたんだ。当然、修羅場だって何度も潜ってきてる。なのに、なんなんだ、これは。
「いや、それは、まぁ、いいじゃないか」
そして、俺は咄嗟のこととはいえ、適当に、そう答えてしまった。
下手な敬語を使うのを忘れて。
「まぁ、いい? へー、私たちから、勝手に逃げておいて、まぁ、いいで済ませる気なんだ」
すると、今度はヘレナが、アリーシャと同じような、背筋が凍るような声色で、そう言ってきた。
いや、待て待て待て。おかしい。絶対におかしい。
この二人はヒロインなんだぞ? 今のこの二人に、ヒロインの面影なんて欠けらも無い。……まさか、影武者か? ……馬鹿か。影武者だったら、もっと上手くやるわ。
「それでは、そろそろ馬車を勧めさせて頂こうと思うのですが、中にお入りになってもらってもよろしいでしょうか?」
は? いや、この状況で、この空気感で、俺はこの二人と一緒に馬車に入らないといけないのか? 無理だぞ? 普通に。
「いや、俺はーー」
中を見てから、歩いて行くかを決めてくれって話だったから、俺は歩いて行く。
「まさか、嫌だなんて、言いませんよね?」
そう言おうとしたんだが、アリーシャが俺の言葉を遮って、俺に圧をかけてきながら、そう言ってきた。
そして、ヘレナの方は何も言ってこないが、黙って、俺を逃がさないように抱きしめてる……いや、ヘレナだし、これは捕まえてる、かな。
捕まえてる力を強めてきた。
「……馬車に、入らせて、もらいます」
俺はもう、そう言うしか無かった。
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