いよいよ逃げられないじゃないか
「……あの? 普通にもう逃げないから、俺の事を囲みながら歩くのはやめないか?」
俺の知ってる公爵家部下を先頭に、俺は最初客だと思っていた男達に、囲まれながら歩いていた。
当然、逃げる隙がないかはバレないように探っている。……そう、逃げようとはしてるさ。ただ、普通に恥ずかしいんだよ。
こんな男達に囲まれて歩くのは。
「もう少し進みましたら、馬車が止めてありますので、ご安心ください」
……どうしよう。何一つとして安心できる要素がないんだが。
だって、出口が限られている馬車なんかに乗ったら、いよいよ逃げられないじゃないか。
……確かに、ほぼ諦めているなんて思ったが、それでも、一縷の望みにかけて、俺は隙を探ってるんだ。
馬車なんかに乗らされたら、本当に、逃げられない。
なんとか、回避しないと。
「いや、俺は歩くのが好きなんだ。だから、馬車は大丈夫、かな」
よし、我ながらいい感じなことを言えたんじゃないか?
これなら不自然じゃないし、公爵家の娘を二人も助けたことになっている俺の好きなことを否定は出来ないだろうしな。
「…………それは良いご趣味をお持ちですね。では、せめて馬車の中だけでも見て貰えませんか?」
「中身? 何かあるのか?」
「先程ちゃんと、申しましたよ?」
? 何か言われたっけか? ……まぁ、忘れるようなことだってことは、そんなに重要なことでもないんだろう。
馬鹿正直に忘れたって言うのも失礼かもだし、適当に頷いておくか。
「あぁ、そうだったな。じゃあ、中だけ見させてもらうよ」
「はい」
何があるのかは知らないが、悪いけど、馬車の中には入らないからな? 少しでも俺は可能性に掛けたいんだ。
そうして、俺が逃げないようにと護衛のていで俺は男達に囲まれながら、馬車のところまでやってきた。
うわ。なんだよこの馬車。中身の気配が一切しないぞ。
人が乗ってる訳じゃないだろうから、人の気配がしないのは当たり前として、単純に、中を探ろうとしても、一切探ることが出来ない。
……凄いとは思うけど、なんのために、こんなの作ったんだ? ……気配を感じさせないってことは、気配を感じさせたくない誰か、もしくは何かがあるってことで、そういう犯罪者からしたら狙ってくださいと言ってるようなものだと思うんだが。
……まさか、これと同じ効果がある馬車を複数個用意してるのか? それだったら、意味はありそう、だけど……とんでもない金が掛かるだろ。……やっぱり意味がわからんな。
「それでは、中をご覧になってください」
外からは中の様子が見えないから、公爵家部下の男はそう言って、俺に扉を開けるように促してきた。
そしてそのまま、男は一歩後ろに下がった。
……なんで、下がったんだ? ……よく分からないけど、まぁいいか。
さっさと中を見て、やっぱり歩かせて欲しいって言えばいいだけだしな。
そう思いながら、俺は軽い気持ちで扉を開けた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます