働くの辞めるから
「あっ、おっさん!」
俺がもう全てを諦めて公爵家部下に連れられて店を出ると、コソコソとしていたおっさんと目が合った。
……あのおっさん、ご丁寧に気配遮断のスキルを使われてるな。……確かに、おっさんが外でコソコソしてるのにもし、気がついていたなら、流石の俺も絶対に怪しんで、逃げた可能性があるしな。
それは正解なんだが、おっさん! 俺はお前に文句があるんだよ。
「さっきぶりだなおっさん」
「お、おう。そう、だな」
さっき公爵家部下が見せてきた笑とは比べ物にならないほどの笑みをおっさんに向けながらそう言うと、おっさんはビビりながら、そう言ってきた。
「ま、待て、仕方ないだろ。公爵様達がお前のことを探していたんだ。普通、お前が何かをしたんだと思って、言いに行くだろうが! そんなやつを庇ってたなんて知られたら、俺の首が飛ぶだろ!?」
そしてそのままの勢いでそう言ってきた。
……くそっ。そう言われたら、何も言い返せない。
だって、俺も逆の立場だったら、真っ先に報告に行くと思うし。
はぁ、俺が会ったばかりの他人を信用しすぎたのが問題だな。
一応、裏組織に所属してた時からの俺の問題点なんだよな。これからも気をつけないとな。
「はぁ。そうだな。おっさんは悪くない」
「そ、そうだろ?」
「あ、後ここで働くの辞めるから」
「あ? あぁ、好きにしろ」
一応、言っておかないとな。
明日以降は来ると思われてたら困るし。
そうして、わざわざ待ってくれていた公爵家部下の人の所に行こうとしたところで、気がついた。
……ん? あのおっさん、あんな豪華な指輪、嵌めてたか?
「あの、ちょっといいか……です」
「ふふっ。私に無理をして敬語を使わなくても結構ですよ?」
……一応、公爵家の人間だけど……まぁ、ただの部下で、公爵家の血が流れてる訳では無いんだし、別にいいか。
「分かった。……それでなんだが、俺の事を何か報告したら、金でも貰えるのか?」
「いえ、そんなことはありませんよ? 時間が掛かるようでしたら、懸賞金がかけられたでしょうが、少なくとも、今のところは、ありませんでしたよ」
「……じゃあ、あのおっさんの指輪は?」
おっさんが最初から持ってたって可能性もあるけど、どう考えても、店を出ていく前まではしてなかったんだよな。
「あぁ、あれは賄賂ですね。最初はあなたの居場所を知らないと言っていたのですが、見るからに何かを知っていそうだったので、あれと交換であなたの情報を貰ったんですよ」
賄賂って……それ、言っていいのかよ。
いや、それよりも……なんだろう。さっきまで仕方ないって気持ちだったのに、今、無性にあのおっさんを殴りたい。
いや、公爵家に探されていた俺の情報を言うなんて、当たり前だとは思う。でも、一回は知らないフリをしたんだろ!? だったら、たかが指輪一個ごときで言うんじゃねぇよ!
「はぁ。分かった。じゃあもう連れてってくれ」
「かしこまりました」
どうせ、もうあのおっさんと関わる気は無いし、もういいや。
そう思って、俺は今度こそ、公爵家部下の元に向かって、公爵家に連れて行って貰うことにした。
……一応、逃げられる隙が無いかを探りながら。
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