なんで分かったんだよ

 あくびを噛み殺しながら、おっさんか客が来るのを待っていると、やっと、店の扉が開いた。

 おっ、おっさんが帰ってきたのか? それとも、客が来たのか? ……出来れば、おっさんであって欲しいな。

 飯を食いに来てるんだから、早く食べたいだろうし。


 そう思っていると、残念なことに、入ってきたのはおっさんではなく、複数人の男達だった。

 ……うわ。おっさんじゃないのかよ。……ってことは、客じゃん。

 ……仕方ないか。説明、しないとな。おっさんが今居なくて、料理が出てくるのは少し待って欲しいって。


「あー、悪いんだけど、今おっさんはーー」


 今、おっさんは居ないから、料理は少し待って欲しい。そう、俺が言おうとした瞬間、俺はその男たちに囲まれた。

 ……? いや、おっさんが居ないのは俺のせいじゃないぞ? 腹が減ってる時にイライラする気持ちは分かるが、俺に当たるのは違うと思うぞ? 

 

「お久しぶりですね」


 この数を相手に俺の初見殺しスキルが通用するかを考えていると、昨日、俺が逃げた時に旦那様に報告に行ってくると言って、俺の目の前から消えた公爵家部下が急に現れて、そう言いながら、俺に近づいてきた。


 ……もしかして、俺を囲んでる人達って、公爵家の人達だったりする? 

 やばい。

 そう思いはしても、もう、逃げられない。

 いや、強引に逃げようと思えば、逃げられるかもしれないけど、公爵家の人間を傷つけることなんかになったら、今逃げられてもなんの意味もない。


「あ、あはは、久しぶり〜です」


 逃げられない。

 そう悟った俺は、下手な笑みを浮かべながら、そう言った。

 くそ、なんで俺がここにいるって分かったんだよ。……変装はしてるし、さっきまで俺を追っていた奴らは完全に撒いてるはずだぞ。


「ふふふ、何故、逃げたのかをお聞きになっても?」


 すると、俺みたいな下手な笑みじゃなくて、上手い? っていうのも変かもしれないが、上手い笑を浮かべているはずなのに、どこか圧のある雰囲気を漂わせながら、公爵家部下の人はそう聞いてきた。

 おかしい。一応、多分実力的には俺の方が上なはずなのに、変な汗が出てきそうになる。

 と言うか、なんて言い訳しよう。

 馬鹿正直に「本当は俺が誘拐犯だとバレる可能性があるからです」とか言えるわけないよな。


 ……ん? と言うか、今更だけどなんで俺はあんな指名手配的なものまでされてたんだ? 

 ま、まさか、本当の誘拐犯が俺だってことがバレたのか!? い、いや、落ち着け。どこからバレるっていうんだ。

 誘拐した時は、絶対に誰にもバレてない自身があるし、アリーシャとヘレナと喋ってた時も、ボロを出した覚えは無い。……あくまで俺が覚えてる範囲でだけど。

 ……あっ、もしかして、あの誘拐犯に仕立てあげたやつが喋ったか?

 いや、それこそありえない。

 だってあいつは、俺が起こそうとしない限り、何をやってももう起きないはずなんだから。


 俺のスキルは初見じゃなきゃ回避される可能性は高いスキルばかりだが、当たる、あるいは効果が発動さえしてしまえば、初見殺しスキルに恥じない効果なんだよ。

 いくら公爵家の拷問官が優秀でも、解呪スキルの使い手が優秀でも、俺が起こそうとしない限り、絶対にあいつが起きることは無いんだ。

 ……一応、その眠っている相手を殺せば、死の間際だけは喋ることができるけど、流石に大事な情報源の誘拐犯を殺すことなんてしないはずだし、そこは大丈夫だな。


「はぁ、分かりました。言いたくないのなら、もう聞きません。あの方達も、あなたを信頼しているらしく、かなり、えぇ、かなり怒っていらっしゃいましたが、何か理由があるのだろうと言ってしましたからね」


 なんで、そんなにかなり怒ってたって部分を主張するんだよ。

 まぁ、ヘレナの方は分かる。大方、信用してない相手ではあるが、黙って逃げたことに普通に腹が立ったんだろう。

 ただ、アリーシャの方は嘘だろ。あいつが怒るところなんて、原作を知ってる俺からしても、想像できないし。

 ……まぁ、流石に逃げた本当の理由を知られたら怒るかもしれないけど。


 何はともあれ、良かった。上手い言い訳は思いつかなかったし、勝手にあっちが納得してくれて。


「それに、私達には一つ、あなたに謝らなければならないことがあります」

「謝る?」


 よく分からないが、謝罪とかいいから、俺を逃がしてくれないかな。

 このままだと、今度こそ、公爵家に連れていかれそうなんだが。……割ともう諦めてるけどさ。

 あの時が本当に千載一遇のチャンスだったんだろうな。……はぁ。


「はい。あなたが捕らえてくれた誘拐犯ですが、まんまと口封じに殺されてしまいました」


 俺が内心で絶望していると、そう言って、公爵家の人達は、一斉に俺に向かって、頭を下げてきた。


「……は?」

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