約束したんだし

 くそっ。誰だよ。昨日、適当に屋根の上で眠ってもいいかなんて間抜けに考えて、眠ったやつは! ……俺だよクソが。


「いたぞ! こっちに黒髪の男がいるぞ!」


 俺は今現在、公爵家の人達に追われている。

 万全の状態ならともかく、いきなり大声で起こされた俺は寝起きが弱いこともあって、全然公爵家の人達を撒けずにいた。……なんなら、もうなんか、指名手配的なのをされてるみたいで、街の住民に位置をバラされまくって、本当に、逃げられない。

 公爵家に探されてる可能性があるのに、髪の色も変えずに、馬鹿みたいに適当な屋根の上で眠ったんだから、当たり前っちゃ当たり前なんだが、俺が馬鹿すぎる。

 

「お待ちーー」


 なんか後ろから聞こえてきたけど、やっと、少しだけだけど、目が覚めてきたんだ。

 だから、俺は目を擦りながら、走るスピードを上げた。

 

 そして、人目のないところまで移動して、髪の色をスキルで変えた。

 はぁ、これで、おっさんのところには行けるには行けるが、これだけ外が騒ぎになってるし、昨日の俺の黒髪を見てるおっさんは今の俺の髪の色を見たら、絶対怪しむはずだ。このタイミングでイメチェンなんて、ありえないと思うし。

 ……でも、行くって約束したんだし、行かない訳にはいかないよな。

 

 そう思いながら、俺は白くなった髪で、おっさんの店の中に入った。

 その瞬間に思った。……俺の今の髪色で、おっさんは俺だって気がついてくれるのか? 

 

「おっ、来たか」

「来るって言ったしな」

「よしっ、ちょうど今から客が来始める時間帯だ。お前は客に注文を聞いて、俺が作った飯を持っていくだけだ。わかったか?」

「分かった」


 良かった。この二つだけなら、俺でも出来そうだ。

 と言うか、このおっさんは俺の髪色について、何も触れないのか? ……触れられないなら触れられないで別にいいけどさ。


「よし、じゃあ俺はちょっと外に出てくるからな」

「? おっさんは飯を作るんじゃないのか?」

「……まぁ、まだ客は来ねぇだろ」


 俺がそう聞くと、おっさんはそう言いながら、慌てて店を出ていった。

 いや、ちょうど今から客がくる時間帯だってさっき言ってただろ。

 なのになんで、今出ていったんだよ。

 ……ま、まさか…………もうボケが始まってきてるのか? ……それなら、仕方ないか。

 客が来たら、おっさんは今出てるけど、直ぐに戻ってくるって伝えればいいか。

 そう思って、俺は適当にその辺にあった椅子に座りながら、おっさんか客を待つことにした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る