公爵領から出ることは出来ないけど

 誘拐犯を引き渡した俺は、とうとう公爵領までやってきてしまった。

 はぁ、逃げたい。帰りたい。……いや、帰る家無いけど。


「では、私は先に旦那様にご報告に行かせて貰いますね。……もちろん、私の部下たちが見張っておりますゆえ、何かがあることはございませんので、ご安心ください」


 そう言って、一番近くにいた公爵家部下は一瞬にして目の前から消えた。

 ……あれ? これ、逃げられるんじゃね? 確かに、周りを囲まれてるし、もう、公爵領から出ることは出来ないかもしれない。

 でも、公爵領の中なら、隠れることはできるし、ここで逃げれば、俺の事なんて、直ぐに諦めてくれるだろ。


 そう思った俺は、馬の足を止めて、走り出した。


「えっ、ちょっと、どうしーー」


 ヘレナが何かを言おうとしていたが、俺はそれを気にしないで、路地裏に入った。

 その瞬間、一気にスピードを上げて、逃げた方向と反対方向に逃げた。

 

 


 よし。逃げきれたぞ。

 最初は何人か俺を追ってきてた奴も居たけど、それも撒いた。

 完全に逃げ切った……とは、まだ言い難いか。

 公爵領から出れた訳ではないからな。ただ、それも時間の問題で、直ぐに俺を探すことなんて諦めるはずだ。

 仮に、想定以上にしつこかったとしても、ずっと俺にばっかり人手は割けないだろう。

 いくら、公爵家とはいえ、人手を割きたい所はいっぱいあるだろうしな。


 さて、一旦逃げきれたはいいが、これから、どうしようかな。

 ……俺、金持ってないんだよな。

 自分が即殺モブだと気がつく前の俺って、かなりその日暮らしな奴だったみたいで、全くの一文無しで、アリーシャとヘレナを誘拐した金で暮らすつもりだったみたいだしな。


 はぁ。身元不明の俺が金を稼ぐには、冒険者、だよな。

 ……でも、そんなところに行ったら、すぐに見つかる気しかしないんだが。

 んー、変装、でもするか? いや、無理だろ。

 一応さ、アリーシャとヘレナを誘拐した時に使った黒フードの服とかはあるけどさ、これ使うのは、流石にダメだろ。

 リスクが高すぎる。絶対、ダメだ。


 いや、マジでどうしような。

 何か、売れるもの……も持ってない。

 強いて言うなら、知識、とかか? 前世の知識を売れば、金にはなると思うし。……仮に売るとしたら、食べ物関連がいいな。

 流石に、現代兵器の情報なんて、言えるわけないし。……そもそも、ろくに知らないし。

 ……よし。あんまり流行ってなさそうな店に行って、食べ物の情報を売れるか試してみるか。

 

 そう思って、俺は街を適当に俺を探している奴らから見つからないように回って、見つけた。

 おっちゃんが一人で経営してる、店を。

 ……んー、でも、これ大丈夫かな? 知る人ぞ知る店的な感じで、頑固なおっちゃんだったらどうしよう。

 ……まぁ、その場合は、別の店を探せばいいか。

 そう考えながら、俺は店の中に入っていった。

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