逃げられない
俺が即殺モブだということに気がついて早三日。
俺が食料を持っていたことから、特に食料に困ることも無く、ここまで来れた。
……まぁ、俺が持ってた食料は、アリーシャとヘレナを誘拐する時の為の食料なんだけどさ。……そんな食料のおかげでこの二人は家に帰れるなんて、皮肉な話だな。
「明日には、公爵領に着くな、ですね」
うん。もうほぼタメ口みたいなもんだけど、気持ちが大事だよな。うん。
「はい。そうですね」
「何度も言ってるけど、無理して敬語なんて使わなくて良いってば」
すると、アリーシャは素直に頷いてくれて、ヘレナは敬語を使わなくていいと言ってくれた。
まぁ、敬語で喋れてるかはともかくとして、敬語を外す気は無いけどな。
「……ッ。アリーシャ、さん、ヘレナ、さん、少し、離れて貰えますか?」
敵意を含んだ視線を感じた俺は、二人にそう言った。
もし、この視線がアリーシャとヘレナにも向けられていたのなら、俺から離れさせることは無かったけど、これ、明らかに俺だけに向いてる視線だ。
もう少しで公爵領に着く。そんな状況から考えられるこの視線の持ち主なんて、公爵家の者としか考えられないだろ。
だから俺は、アリーシャとヘレナが離れてくれ次第、全速力で逃げるつもりだ。
当然、この視線の持ち主は俺の事を追いかけてくるだろうが、俺に気が付かれないこともろくに出来ない三下だ。逃げ切るくらい、余裕だ。
逃げ切りさえすれば、上に報告するために一旦、戻るはず。
そしてその時、二人が俺の事を誘拐犯ではなく、助けてくれた人だと説明してくれるはず。うん。完璧な計画だ。
そう思って、二人が離れてくれるのを待ってるんだが、全然離れてくれる気配が無かった。
……いや、なんで離れてくれないんだ!? 早く離れてくれないと、逃げられないんだが!? いや、無理やり逃げようと思えば逃げられるだろうが、その場合、二人を押し退ける形になり、怪我をさせてしまうかもしれない。
そんなことになれば、せっかく、二人を助けたってことに出来てるのに、二人に怪我をさせたってことで公爵家に追われるかもしれないだろ!?
「あ、あの? 早く、離れて欲しいんですけど?」
「……なんでかは分からないんですが、離れない方がいい、気がするんですよね」
「……私も。今、離れたら、あんたがどっかに行っちゃう気がする」
「は、ははは……そんな訳、ないだろ……ですよ」
なんでだ? 俺、なにか知らないうちに、感ずかれるようなことでも言ったか?
て言うか、やばい。このままじゃ、俺の事を恩人として、公爵家に連れていかれるぞ!?
「あ、あーっ! ゆ、誘拐犯がー!」
視線の持ち主が近づいてきてるのを感じた俺は、荷馬車の誘拐犯を乗せてる方を指さしながら、そう言った。
別に、誘拐犯(仮)に何かがあった訳では無い。当然、眠ったままだ。
ただ、そういえば、あいつに誘拐されたと思ってる二人は自然と視線がいって、恐怖が湧いてくるはずだ。
そうなれば、俺から離れて、あいつを警戒するはず。
…………その、はず、なのに、なんで、この二人は俺に抱きついて、誘拐犯の方を睨んでるんだ? ……俺のことは、そこまで信用なんてしてないはずなのに。
「き、急に大声を出すから、あいつが起きたのかと思ったら、何にもないじゃない!」
「……私も、びっくりしましたよ」
「これは、どういう状況、なのでしょうか」
すると、とうとう、来てしまった。
しかも、いつの間にか連絡もされてたようで、俺たちを囲むように、ここに人が集まってきてる。
あ、やば。終わった。
……俺が逃げられると思ったのは、あの距離ならって話で、この距離で、しかも、俺の事を警戒している相手には、逃げられない。
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