タイトルを入力してください

霜桜 雪奈

無題


 周りが帰りの支度を始めた教室で、私はスマホを手にして、友人である真白にある質問をする。


「ねぇ、真白。これの名前って何だと思う?」


「え?何って、千歌のスマホでしょ?」


「そう、正解。でも、不正解」


「え、どういうこと?」


 私はスマホを開きながら説明する。


「これを私達はスマホって呼んでるけど、もしかしたら本当は違う名前なのかもしれないなって思ってさ」


「ごめん、何言ってるか分からないわ」


「うん、私も何言ってるか分からない」


 真白は呆れた様に息を吐き、荷物を持つ。


「ほら、くだらないこと言ってないで早く帰るわよ」


「まって、これだけ言わせて」


 そう言って私は、ホーム画面にあるアプリを見せる。


「見たことないアプリ…『タイトルを入力してください』?」


「昨日、なんか勝手にダウンロードされてた」


「そう…で、これがどうかした?」


「それがさ…あ、帰りながら話そう」


 五時を回った時計を見て、私は急いで荷物を持った。今日は、推しの配信をリアタイなければならないのだ。



 夕焼けが町を染めている。歩く道も空も橙に染まっており、なんだか幻想的だ。


「で、そのアプリがどうしたの?」


 学校から少し歩いてきたところで、真白が口を開く。


「このアプリ開くと、無題の小説のファイルが沢山並んでるんだよね。で、その小説のファイルを開くと、小説が読める。読んだ後に、アプリの名前でもある『タイトルを入力してください』って文字が、画面いっぱいに表示されるんだけど…」


「…だけど?」


「タイトルと入力しろって言うくせに、入力フォームが無いんだよ。しかも、小説の大半が書きかけでさ…」


 アプリを起動して、沢山の小説ファイルから一つを選んで開く。その小説は、女子二人の日常を描いたような作品だった。


「それで、昨日ちょっと試したんだけど…タイトルは入力できないけど、小説の続きは書けるんだよね。」


「ますますわからなくなってきたわ…あ、小説を完成させたらタイトルを入力できるとか?」


「あぁ、それあるかもしれない。…けど、小説書いたことないんだけど…」


「だったら、とりあえず終わらせてみちゃうのは?」


 私はスマホの画面に表示された文章を、今一度読み直す。そして、真白の言われた通り、小説を強制的に終わらせることにした。

 …とりあえず、今の状況でも書くか。状況もぴったりだろうし。


 夕焼けに染まる道を、二人は歩く。空には少し藍が混じってきた。

 アプリの事は何もわからない。だが、小説を完成させることで、アプリについて少しでもわかることがあるかもしれない。そんな期待を胸に、私は最後の文章を書き加えた。


 終わり。



















 『タイトルを入力してください』



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