青春を知りたい彼女に、恋を教えてみた。

西風珈琲

第1話 雅樂大和は青春を知らない

「そうはならんだろー」


 ラブコメアニメの最終回で両想いだった男女が結ばれるシーンを見て、あまりにも非現実的な結末にツッコミを入れてしまった。

 この手の結末には慣れている。

 こうして高校3年間のほとんどの時間をアニメ鑑賞(主にラブコメ)に費やしていた俺雅樂うた大和ひろかずにはわかる。

 紆余曲折のあった主人公が最後は可愛いヒロインに勇気を出して告白、そして結ばれる。

 だいたいラブコメの展開はこんな感じでつくられているだろう。

 ―――そしてそのほとんどの舞台となっているのがである。


 悔しいことにヒロインはとても魅力的で、こんなやつ現実にはいないことはわかっていて見ているのだが、不覚にもめっちゃ可愛いと思ってしまう。

「ちくしょー。おい、そこの主人公俺と変わってくれよ。」

 アニメを見る度に俺は起こり得もしないそんなことを考えているのだ。


 みんなも一度は思ったことはあるのではないか

 なぜ、高校生設定のラブコメアニメがこんなにも世の中には出回っているのだろうか

 そしてなぜこれほども多くのお友達に人気を博しているのかが

 俺はそのを知っている

 俺がキャラが高校生であるアニメを中心的に見る理由もそこにある

 ――――俺もその1人であるから。


「高校生活もあと1週間で終わりかー」

 教室では高校生活での思い出話に花を咲かせて、友との別れを悲しんでいるやつがいたり

 次の新生活への新たな出会いや出来事に期待を膨らませているやつがいたり

 この学校で過ごす時間も残り僅かなものであるとクラスでの雰囲気を見て感じていた。


 窓の景色を見るともうじき使われる新校舎が建っていた。

 俺が通っている私立楓都学園は来年度から椿学園に校名を改め、それに合わせて校舎も建て替えるらしい。

 なんでも学園の理事長が新しく変わることが理由なようだ。

 まあもうじき卒業をする俺たち3年には関係のない話だが


 この学校には全国大会さらにはプロスポーツ選手を目指すAクラス

 東大や京大を将来のエリートを目指すBクラス

 そして俺のようななんの才能もないごく普通のやつが通う普通クラスがC~Eクラス

 1学年計5クラスで構成されている


 俺の高校生活はとくにこれと言ってなんの面白味のないまま終わりを迎えようとしている。

 勉強に部活!そして恋に青春!

 ・・・

 どれひとつ当てはまっていない

 自分でも悲しくなってくるぞ


 なんだよこれ

 ラブコメアニメの世界だったらこういうごく平凡のつまらない俺みたいなやつが主人公に選ばれるんじゃないのかよ

 ある日突然、未来人・宇宙人・超能力者を探している女の子に絡まれて一緒に新しい部活を作ったり

 ある日突然、夜中寝ている最中に妹にビンタをされ人生相談があると言われたり

 ある日突然、先生から罰として奉仕部とかいう部活に強制的に入部させられたり

 そういう展開があるんじゃないのかよ


 俺を主人公として書いている作者何してるんだよ

 本当になにもないまま、もうすぐで俺の高校生活終わっちゃうよ


 もしかしてまだいないとか・・・

 だったら・・・

 僕を主人公としたライトノベル作品の作者を募集しています☆

 有名ラノベ作家、さらにはアニメ化を目指しているそこの君

 この雅樂大和を主人公として青春ラブコメストーリーを書いてみよう


 どうでもいいことを考えながら帰りのホームルーム活動を聞いていると

「雅樂、放課後少し話があるから来てほしい」

 担任は俺を名指しで放課後残るように言った。


 久しぶりに担任が俺の名前を呼んだ気がした。

 3年間同じ担任ではあったが、呼ばれたのは片手で数えるくらいだ

 それも雑用を頼むことがほとんどだった。

 どうせ今回も何か雑用でも押し付けられるのだろうと俺は考えていた。


 俺は担任に案内され誰もいない相談室へと向かった。

 いつもなら教室で済ませる話もどうして今日はここで

 ―――なんかいつもと違うような


「雅樂、留年だ」

「え?」


 担任の話とはまさかの留年宣告であった

 あまりの急な話に俺の頭は追いついていなかった

 俺が留年だと?


「なんで自分が留年なんですか?授業にもしっかり出ていたし、試験だってそんなに悪くはないし、まあ良くはないけれど…」

「もう決まったことだから。君の親御さんも君の留年に納得してくれている。もう1年頑張れよ雅樂」

 担任は用件だけ簡単に伝え、まだなにも理解ができていない俺を帰した。


 家に帰り、俺は母に学校でのことを話した。

 そうすると母は「留年しなさい」と学校側の理由のわからない留年通告を受け入れた。

 母もどうしてあっさりと俺の留年を受け入れるのかがわからなかった。



※※


 ―――そして4月

 留年をしないと今後の大学の学費や生活費を出さないと母に脅され、結局俺は留年することを受け入れた。

 本来であれば俺は大学生となり、高校生活のリベンジに向けて輝かしいキャンパスライフのスタートを着るはずだったのだが…


「なんで俺たちだけ新校舎じゃなくて旧校舎のままなんだよ」

 俺がもう1年過ごす学びの場は旧楓都学園の校舎のままであった。

 母の情報によると俺以外にも何人かが留年することになったらしい。


「なんだよ、3-Mって」

 俺が過ごした教室の表札を見ると3-Dから3-Mと変わっていた。

 留年になった他のやつも俺みたいに成績がパッとしなかったやつに違いない。

 どうせ留年したんだちょっとは本気で勉強でもして1位取って卒業してやるか

 思い付きの軽い決心をして、俺は教室の扉を開いた。


「なんでこいつらがここに…」

 そこにいたのは

 Aクラスの野球部のエース

 Bクラスの学年1位の天才

 Cクラスの学校1の人気者


 絶対に留年することがなさそうなやつらが教室にいた。

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青春を知りたい彼女に、恋を教えてみた。 西風珈琲 @coffeegairu

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