第32話 計画通り~パート2~
金曜日の昼休み、上園葵は毎週恒例となった夕貴のお弁当からつくね団子を箸でつまんで口に入れた。
あっさりとした鶏むね肉ミンチにマヨネーズを混ぜているので適度なコクがでており、砂糖醤油のタレとも相まって美味しく感じる。
先週、家族で行った焼き鳥の名店で食べたものには及ばないが、これはこれで美味しい。
私が食べている様子を、夕貴はいかにも感想を聞きたそうな顔で見つめている。
「まあ、美味しい部類には入るわね」
私が褒めると、夕貴は満面の笑みを浮かべた。学校ということで控えめにメイクしている目元がかわいい。
「でも、何、このデブ製造機みたいなお弁当は?つくねに、ちくわのマヨネーズ焼きに、エビマヨって、マヨネーズばかりで太るじゃない!」
「ごめん」
夕貴の先ほどのまでの笑顔は一瞬にして消え、今にも泣きそうな表情となった。
この素直なところが夕貴のいいところだ。
「じゃ、私もらうね。今日部活だから、たくさん食べておかないと体がもたないよ」
「ダメ!」
茜が私のお弁当箱に箸を伸ばしてきたので、慌ててお弁当箱を手で隠した。
「じゃ、私のあげるよ」
「ありがとう。このエビマヨ美味しい」
「えっ、ずるい。私もいい?う~ん、このつくね最高」
夕貴が差し出した弁当箱からエビマヨとつくねをもらった茜と佐野っちは、あまりに美味しかったのか遠慮なく二つ目に箸を伸ばしている。
夕貴も「どうぞ、どうぞ」と差し出し、夕貴のお弁当箱は半分くらい減ってしまった。
「夕貴、そんなにあげて大丈夫なの?」
「うん、もうすぐ文化祭でドレス着るから、ちょうどダイエット始めなきゃと思ったところだし」
「私にデブ製造機のお弁当渡しておいて、よく言うね」
「それは、ごめんって。我が家で美味しいもの作ろうと思ったらマヨは必要なの」
「夫婦喧嘩はよそでしてよ」
私たちの痴話げんかに、呆れた顔の茜がツッコミをいれた。
一方、エビマヨを食べ終えた佐野っちが思い出したかのように、夕貴に話しかけた。
「そういえば、今日の下着の色聞いてなかったけど、何色なの?」
「紫だよ。でも、お弁当食べながらする話題?」
佐野っちはスケジュール帳を取り出すと、今日の日付に『紫』と書きこんだ。
「いや~、朝遅刻ギリギリだったから聞くの忘れて、気になって午前の授業集中できなかったんだ」
今日の私の下着も紫だ。夕貴とお揃いだとわかると嬉しくてなって、聞き出してくれた佐野っちに感謝したながら、みんなにバレないようさりげなく胸を抑えた。
「ごちそうさま。今日もお弁当ありがとうね」
太るとわかっていながら、結局食欲には勝てずお弁当箱を空にしてしまった。
夕貴がおねだりする子供のような表情で、私をみつめている。
「じゃ、私ちょっと職員室に行かないといけないから」
言いながら夕貴にアイコンタクトを送ると、夕貴がうなずいた。
職員室に行くというのは嘘で、階段を上り屋上入口の手前の踊り場に向かった。
数分後、期待の笑みが抑えきれない夕貴が現れた。
「バレないようにした?」
「うん」
「お弁当ありがとうね」
お弁当のお礼の意味を込めて、夕貴をギュッと抱きしめた。
夕貴の下半身にあるものが私の太ももに触れる。私もこのまま夕貴を押し倒して唇と童貞を奪いたい衝動に駆られるが、すんでのところで耐え抜いた。
◇ ◇ ◇
午後4時半、校門前には黒塗りの車が止まっており、運転手兼お付きの黒沢が私の姿をみつけると運転席からでてきて一礼をした。
「お迎え、ありがとうね」
黒沢が車のドアをあけ、私は車へと乗り込んだ。
車のエンジンをかけながら、黒沢が思い出したかのように話しかけてきた。
「お嬢様、興信所への支払いは済ませてきました」
「ありがとう」
月曜日の朝、クラスの女子たちとじゃれあっている夕貴を見て、女子の輪に入れてクラスになじんできて良かったという思いと同時に、あまりに嬉しそうにしているのでちょっとお仕置きしてやりたい悪戯心に火が付いた。
その日の夜、いつも利用している興信所に電話した。
最初は渋っていたが、特別報酬を弾むというと仕事を引き受けてくれた。
火曜日、登校すると落ち込んでいる夕貴をみて、計画通りことが進んだことを確信した。
昼休み、今日と同じように屋上入口の手前の踊り場へと呼び出し、夕貴に女の子としての自覚のなさをあえて厳しい口調で注意した。
私に慰めてもらえると期待した夕貴は、予想に反して責められたことで涙を流しはじめた。
夕貴も十分身に染みたところで、そろそろお仕置きも終わりご褒美を上げることにした。
涙を流している夕貴をギュッと抱きしめてあげた。
夕貴も嬉しかっただろうが、私も嬉しかった。
女の子の体とは違う、ギュッと引き締まった筋肉質の体。
夕貴の心も体も手に入れた瞬間だった。
「お嬢様、ご機嫌ですね」
まったりと回想に浸っていたところを、黒沢に声を掛けられて我に返った。
「まあね。計画通り順調だと気分がいいわ」
夕暮れの街を黒沢の運転する車は、私の人生のように順調に進んでいった。
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