第17話 いじめ

 最初は戸惑いの多い女子高生活だったが、慣れてみると女の子の楽しさが分かってきた。恥ずかしかったピンクをふんだんにに使っている桜ノ宮の制服も、今ではかわいい制服を着れることが嬉しくすら感じる。

 

 5月も半ば過ぎ、気温が高くなってきたので最近はブレザーはやめてスクールベストを着て登校した。

 スクールベストの必要性について、去年まで暑いのに女子はなんで着ているのだろうと疑問に思っていたが、女の子になってみてその答えが分かった。

 ブラウス一枚だとブラが透ける。


 女の子って、ブラジャーして、キャミソール着て、その上から制服のブラウスを着てさらにベストまで着る。

 それにリボンをつけるためブラウスのボタンも上まで全部止めるし、女の子って暑い。


 葵にそのことを相談すると、「気合よ」とだけ答えられた。そういえば、以前体育の後でも一人だけ涼しい顔をしていた。

 女の子って見えないところで、努力しているようだ。


 そんなことを考え、昇降口で靴を履き替えようと靴箱に手を入れた。しかし、あるべきはずの上履きはなく、手は空回りするだけだった。


 金曜日帰るときに確実に入れておいたはずなのに、いつの間になくなっていた。


「下野さん、おはよ。どうしたの?」

「右田さん、おはよ。上靴がなくなってて」

「大変、一緒に探そう」


 二人で昇降口付近を探していると、昇降口に設置されてあるゴミ箱の中から上靴が見つかった。


「ひどい、誰がやったんだろうね」

「まあ、ボロかったから、ゴミだと思われたかも」


 教室へと向かう途中、落ち込む僕とは対照的に右田さんは怒りをあらわにしている。


「葵、佐野っち、聞いてよ。下野さんの上靴がね……」


 教室に入るなり右田さんは葵と佐野さんのもとへと行って、さっきのことを報告している。

 僕はカバンの中身を机に入れながら、誰が何のためにしたのか考えていた。

 このクラスには僕を弄ってくる子はいても、上靴を隠すような陰湿ないじめをしそうな子はいない。


「佐野さん、古文の教科書貸してもらっていい?忘れたみたいだから、コピーしてくる」

「下着の色教えてくれたら、いいよ」

「今日は体育もないし透けるの気にしなくていいから、一番のお気に入りの紫にしたよ」

「おっ、セクシー」

「そうでしょ。だから、お気に入り」


 佐野さんは教科書を手渡すと僕のお尻を撫で始めた。僕はお尻をフリフリして応える。佐野さんとの下着のやり取りも、毎日やっていると恥ずかしさもなくなり、やり取りを楽しむ余裕もうまれてきた。


 お昼休み明けの4時間目の古文の教科書を忘れたみたいだ。古文は昨日もあったので、カバンの中に入れっぱなしだったはずだが、カバンの中には入っていなかった。

 どこいったのかな?教科書をコピーしながら考えた。朝、カバンの中から机の中に入れたような気もする。


 教室に戻り佐野さんに教科書を返したあと、古文のノートを机から取り出そうとすると教科書もあることに気付いた。

 無くしたと心配したが、見落としていただけだった。コピー代損したなと思いながら、古文の教科書を開くと思わず声を上げてしまった。


「何、これ!ひどい」


 僕の周りをクラスのみんなが取り囲み、「変態」「オカマ野郎」とマジックで大きく落書きされた僕の教科書を見て非難の声を上げた。


「どうしたの?」


 職員室に行っていた葵が教室に戻ってきた。早速、右田さんが僕の教科書を葵に見せた。


「葵、見てよ。ひどいでしょ」

「ひどい。誰がしたの?私、絶対に許さない!」


 葵は誰よりも強い怒りをあらわにした。動揺して何も言えない僕の代わりに怒ってくれている葵の姿が頼もしく感じた。


 落ち込んだ気分のまま、その日の学校の授業を終えた。


「夕貴、元気出しなよ。気分転換にこのあとパフェでも食べに行きたいところだけど、ごめん先生に呼ばれてるの」

「気持ちだけ受け取っておくよ。葵も大変だね」

「そうなのよ。来年の学校案内用のパンフレットの表紙になるみたいで、その打合せ。先生待たせるのも悪いから、もういくね」


 葵と話して慰めてもらうかと思ったけど、先生に呼ばれているのなら仕方ない。一人で帰ることにした。


「下野さん、ちょっとこっちに来て」


 教室を出たところで、面識のない女子生徒に声を掛けられた。こちらの返事を待つことなく僕の両隣を別の女子二人が囲んでいて、断れそうにない雰囲気だ。


 3人組の女子たちに連れられてきたのは、校舎一階の端っこにある空き教室だった。


「そういえば、自己紹介がまだだったね。私は隣の2組の、広瀬理沙。後ろの二人は、佐藤と鈴木だけど、モブキャラだから覚える必要はないわ」


 自分の言ったセリフに面白みを感じたのか、広瀬さんの表情が一瞬緩んだ。

 僕はその迫力に圧倒され無言のまま、広瀬さんを見つめる。


「そう怯えなくてもいいわよ。ちょっと確かめたいことがあるだけだから」

「確かめたいこと?」

「あんたが本当にトランスジェンダーなのか、たんなる女装の変態なのかよ」

「ひょっとして、上靴隠したり、教科書に落書きしたのは?」


 広瀬さんは僕の問いかけに答えることなく、カバンの中から一冊の本を取り出した。

 それと同時に、佐藤と鈴木が僕の両脇をがっしり固めた。


「ほら、じっくり見なよ。あんたの好きな、『巨乳天国 Fカップの魔力』だぞ」


 広瀬さんは適当にページをめくり、大きな胸の女性の裸の写真を僕の目の前に突き付けた。

 その性的な刺激に、下半身のアレが固くなり始める。


「ほら、やっぱりこんなところを大きくして。イケないでしょ、女の子が女の裸見て興奮しちゃ」


 広瀬さんは身動きがとれない僕の股間を、スカートの上から撫でまわし始めた。その刺激に、ますます僕のアレは大きくなってくる。


「どうしようかな?先生に言っちゃおうかな?」

「それだけは、やめて」


 トランスジェンダーでないことがバレると、退学だけでは済まない事態になる。


「お願いには、やり方ってものがあるでしょ。土下座しなよ」


 土下座するなんて屈辱的だが、秘密をまもるためにはやむを得ない。膝まついて、手を床につけて許しを請うことにした。


「それだけは、ご勘弁ください」

「ほら、頭もつけな」


 広瀬さんの足が僕を踏み、僕の顔が床に押し付けられた。恐怖と屈辱の感情が入り混じり、涙がでてきた。


「あんたたち、何やってるのよ!」


 突然ドアがひらき、葵の声が聞こえた。


「上園さん、どうしてここがわかった?」

「夕貴にはGPS付けているの。学校から帰ってなかったから変だなと思ってきてみたら、寄ってたかって夕貴を苛めていいと思ってるの?」


 GPS?いつの間に?そういえば、カバンにマスコットつけていたほうが女の子らしいって、葵にもらったのを思い出した。その中にGPSが?って今はそんなことどうでもいい。


「下野さん、女の裸見て興奮してたよ。トランスジェンダーでもないのに、女子高にきてていいの?」

「当たり前よ。夕貴は、トランスジェンダーでレズビアンよ。女の子が好きなんだから、女の裸見て興奮するのは当たり前よ」


 えっ、僕そんな設定なの?また、葵が勝手な設定変更に戸惑うとともに、二人の間にピンと張りつめた緊張感で口がはさめない。


「まあ、そういうことにしておくわ」


 広瀬さんと他の二人は一緒に教室から出て行った。


「葵、助けに来てくれてありがとう」

「あとで、あの子には私から今日のことは内緒にするように言っておくから安心して」

「ありがとう」


 気づけば葵の胸に顔をうずめながら涙を流していた。そんな僕の後頭部を葵の手が優しく撫でてくれる。

 僕の股間はまたしても固くなってきた。



 


 





 

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