第11話 憧れのデート
朝からデートの準備に大忙しだった。
一日中夕貴と一緒にいたいから、本当は午前中からデートしたかったが、準備に手間取るのが目に見えていたため、13時の約束しておいたて良かった。
だって憧れの夕貴との初デート。気合が入らないわけがない。
クローゼットから洋服を出しては引っ込めてを繰り返し、ずっと今日のコーデについて悩んでいる。
清楚系がいいのかな?それとも高校生らしくカジュアル系?スカートを着てくる夕貴と対照的なパンツスタイルも捨てがたい。
悩んでばかりで何も決められないうちに、時間は差し迫ってきた。
結局、白地の水玉のブラウスに黒のスカートのコーデにした。これだと張り切った感じがでないカジュアル感あり、それでいてブラウスのフリルがフェミニンさも兼ね備えている。
きっと夕貴も気に入ってくれるはずだ。
「じゃ、お母さん、行ってくるね」
準備を整え家を出る前に、リビングのテレビで韓流ドラマを見ている母に声をかけた。
「あら、葵。今日は気合入っているわね。デート?」
「どうしてわかった?」
「わかるわよ。メイクはいつもより濃いめのリップだし、髪はいつもゴムなのに今日はスカーフでまとめているし」
やはり同姓である母のチェックは厳しい。
「ほら葵、ここに座って」
「あんまり時間ないんだけど」
「いいからすぐに終わるから」
リビングのソファに座って待っていると、母は自分のメイク道具を持ってきた。
「リップだけ濃いめにしてもバランス悪いから、チークもつけないとね。あとアイメイクにラメも入れると、華やかになるからね」
「ちょっとやりすぎじゃない?」
「大丈夫。任せておいて」
母は若いころはモデルだったこともあり、慣れた手つきでメイクを直してくれた。
「これでいいかな」
母から渡された手鏡で、仕上がりを確認してみた。
高校生らしくナチュラルでありながら、ラメのアイシャドウが非日常を演出して、艶のあるふっくらした唇が官能的だ。完璧。きっと、夕貴も「かわいい」と言ってくれるはず。
「お母さん、ありがとう」
「じゃ、デート頑張ってね」
母に背中をたたかれ、家をでた。私が夕貴を好きなことを、母は薄々気づいているのかもしれない。
待ち合わせの駅前広場に着いたが、まだ夕貴の姿はなかった。
慣れないミニスカートに戸惑いながら歩いてきた夕貴の姿をみて、「何なのそれは?」と一目もはばからず叫んでしまった。
水色のチェック柄にピンクの花柄のスカート。どっちも淡い色でコーデにメリハリがないし、なにより柄物がかぶっている。
このままではデートもくそもないので、予定を変更して駅前のサトーココノカドーに行くことにした。
2階の衣料品売り場でいい感じのミニスカートを選び、試着室へと夕貴を押し込んだ。
「ねえ、まだ?」
「ごめん、リボンが上手く結べなくて」
しびれを切らして、試着室のカーテンを開けるとリボンに苦戦している夕貴がいた。膝上15cmのミニスカートが恥ずかしいのか、内また気味になっているところがかわいい。
改めて夕貴の姿をみたところで、さっきから抱いていた違和感の原因に気付いた。
「スカートの位置、もう少し上だよ。スカートは腰で履くの」
学校ではブレザーを着ていたのでわからなかったが、スカートの位置が違っていた。
スカートの位置を調節してリボンを結んであげるため、中腰になりながら、試着室にいる夕貴の腰に手を当てた。
この薄っぺらい布一枚の向こうには夕貴のシンボルがあると思うと、リボンを結びながら興奮してしまう。
思わず触って、すりすりして、ペロペロしたい衝動に駆られるが、人前なので我慢。きっと、この先夕貴を襲うチャンスなんていくらでもある。
体育倉庫に呼び出してもいいし、秋には修学旅行もある。
「葵、どうした顔が真っ赤だよ」
妄想していたら、知らないうちに顔が赤くなっていたみたいだ。理由なんて話せないので、質問に答えず店員さんを呼んだ。
「すみません、この服をこのまま着て帰りたいので、タグを取って貰えますか?」
タグを切るため夕貴に近づいた店員さんは、一瞬夕貴の顔を見上げ確認したのち、「よくお似合いです」と言いながら何事もなかったようにタグを切った。
女性にしては筋肉質な脚とくびれのない体形で、男であることに気付いたようだ。
「夕貴、ここで待ってて。私、会計済ませてくるから」
会計のためレジへと店員さんと一緒に向かった。
「彼、男だって気づきました?」
「やっぱり、そうでしたか。なんとなく骨格がおかしいと思ったんですよね」
男と気づいていても素知らぬ振りをしてくれた、プロの接客に感謝しながら会計を終えた。
レジから戻ると、試着室の前に周りを気にしながら立っている夕貴の姿が見えた。
「お待たせ」
私が戻ってきたのを見て、夕貴の顔には安どの表情が浮かんだ。そう、この目がみたかった。
女装初日の反抗的な目もいいし、恥辱にまみれ泣き出しそうな目も好きだが、私だけを頼りにして、私にすがるような目が一番好きだ。
「かわいい」
抱き着きたい衝動にかられたが、人目もあるので夕貴のお尻を触るぐらいにした。
そのあと、本屋で10代向けのファッション誌を買い、プリクラを撮ったところで3時を過ぎていた。
夕貴の壊滅的なファッションセンスのせいで予定が狂ってしまった。確か4時までだったはず。もうそろそろ行かないと、間に合わない。
「夕貴、疲れたから休まない」
「うん」
夕貴の返事に生気がない。まあ、慣れないミニスカートで下着が見えないかずっと心配していたし、すれ違う人に男とバレて嘲笑されるたびに落ち込んでいた。
体力的にはともかく、精神的にはかなりやられてそうだ。「でも、今日の本当の山場はこれからだぞ」と心の中でつぶやいた。
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