第10話 葵に足りないもの
職員室のドアを開けると、先生たちは今日の授業を終えた安心感と開放感からか、授業中には見せないくつろいだ表情をしていた。
優等生でもある葵のことは、直接授業を受け持たない先生たちにも知られており、葵が職員室に入ると皆が葵の事を視線で追い始めた。
「先生、クラスの進路希望表集めて持ってきました」
「あっ、上園さんありがとう」
クラスの学級委員でもある葵は、クラス全員分の進路希望表の束を先生に渡した。
「集めてくれて、ありがとう。上園さん、ところで、下野さんはどう?転校して一週間になるけど、慣れてきてる?」
「女の子になったばかりなので戸惑っているところも多いですけど、佐野さんや右田さんとも仲良くなって楽しそうにしています」
「そう、それはよかった。あと、女子高に男子って心配したけど大丈夫?」
「それも大丈夫だと思います。みんな慣れてきて、逆に下野さんの方が気を使っています」
最初は男子が来ることに抵抗のあったクラスのみんなも慣れてきて、夕貴が人畜無害だとわかると、特に気にする様子を見せなくなった。
大人しくて抵抗できない夕貴を、みんなおもちゃがわりに楽しんでいるところもあり、わざと夕貴の近くでエロい会話を始め、居たたまれなくなった夕貴が逃げ出す姿を笑っているのを何回も目撃した。
佐野っちに至っては、朝のあいさつ代わりに「今日の下着何色?」と聞いて顔を真っ赤にして答える夕貴をみて楽しんでいる。
ちなみに夕貴には、ピンクと水色と黄色の3セット下着は渡しておいたが、もう少しバリエーション増やした方が面白そうだ。
夕貴を女子高に転校させて一週間が経った。職員室から教室に戻りながら、この一週間のことを思い出していた。
転校初日に夕貴の家に迎えに行ったときの、夕貴の恥辱に満ちた表情は今でも忘れられない。
初めてスカートを履いて外に出たとき、恥ずかしさのあまり泣き出しそうな顔は写真を撮っておけば良かったと後悔した。
でもそんな恥辱にまみれながらも、満員電車で押しつぶされそうに私を比較的ゆとりのあるドア横のスペースへと移動させてくれた。ぶっきらぼうながら、恩着せがましくない優しさは子供の時から変わっていなかった。
渡り廊下を歩いていると、手をつないで歩いてている女子生徒二人組とすれ違った。
女子高では、女の子同士手を握ったり、抱き着いたりは割と普通だ。
この一週間何度も夕貴と手を握り、抱き着いた。女の子同士だと、別に付き合っていなくても自然な感じでできる。
やっぱり夕貴をこの学校に転校させて良かった。自分の選択は間違ってなかったと、我ながら思った。
夕貴のことは好きだけど、自分から好きだと告白するなんてプライドが許さない。夕貴の方から「付き合ってください」といわれ、「しょうがないな」と言いながら付き合うぐらいがちょうどいい。
廊下の向こう側から、Tシャツにハーフパンツ姿の右田茜が私に手を振っているのが見えた。
「おっ、葵。職員室に行ってたの?」
「そう。提出物持って行ったとこ。茜は今から部活?」
「うん」
「頑張ってね」
会話しながらも、薄着で目立っている茜の胸に視線がいってしまう。スポブラしていてもわかるその豊かな膨らみは、ゆうにDカップはあると思われる。
バスケ部なのに身長155㎝とそんなに高くない身長に、童顔で中学生にも見える彼女が、豊かな胸をもっているのがうらやましい。
上園グループ社長の一人娘で、地位もお金も美貌もすべて手にしている私が唯一ないもの、それが胸のふくらみだった。
身長は165㎝と順調に成長したが、高校生になっても胸はAAカップのままだ。お金に物言わせて作らせたオーダーメイドのシリコンパッドで誤魔化して、みんなにはBカップということにしているが、それがバレたら舌を切って死にたいぐらい恥ずかしい。
そんなコンプレックスを抱えているので、夕貴の部屋を衣替えしたときにベッドの下から「巨乳天国」や「Fカップの魔力」なんて本が見つかったと連絡があったときには、無性に腹が立った。
嫌がらせにそのまま母親に渡すように指示したものの、怒りが静まると今度は落ち込んでしまう。やっぱり男の人って大きい胸が好きなのかな?
夕飯を終え、自分の部屋に入るとすぐにパソコンの電源をつけた。
パソコンが立ち上がると、すぐにカメラマークのアイコンをダブルクリックする。パソコンのディスプレイには、夕貴の部屋が映っている。まだ夕貴は部屋に戻っていないようだ。
夕貴の部屋を衣替えしたついでに、業者に依頼して隠しカメラをつけてもらった。暗視モードもあるので、寝顔までばっちり見える。
チェック柄のパジャマを着た夕貴が部屋に入ってきた。
部屋に入るなり、ベッドへとダイブした。よっぽど女子高生生活が疲れているようだ。
リラックスしたタイミングを見計らって、メッセージを送信する。すぐさま、夕貴から電話があった。
「勝手に予定いれるなよ」
「いいじゃない。どうせ、やることないんでしょ。一緒に遊ぼうよ」
「まあ、そうだけど」
夕貴は最初は釈然としない表情をしていたが、クローゼットの中にある服を思い出したのか焦った表情になった。
「明日、あのスカート履いて行くの?」
「当たり前でしょ。スカートしか持ってないでしょ。あと制服着てきたら、ダメだからね」
通話を終えた夕貴はクローゼットを開け、ミニスカートを取り出し自分の体にあてて丈の長さをチェックしている。
どれもミニスカートばかりなことを改めて知り絶望的な表情になった夕貴の姿が見れたところで、勉強を始めることにした。
明日はデートだから、それまでに宿題終わらせておかないとね。
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