第4章 キトゥエ星系戦 3
「15分後に本艦は3の30方式による加速を開始する。繰り返す、15分後に本艦は3の30方式による加速を開始する。以上」
第11艦隊の各艦で同様のアナウンスが行われた。当直中の将兵は加速に備えて固定されていない物品機材がないか、最終確認を行い、確認を終えたものからWAPを着用し部署のシートについた。非直のものは早々に耐Gカプセルに入った。
2200時。予定通り第11艦隊は連合の侵攻艦隊を迎撃するため一斉回頭を行い、3G加速を開始した。
連合の艦隊は軌道を遷移することなく、最短の軌道をとって第3惑星軌道に侵攻していた。2000隻規模の連邦の艦隊が対峙しているとなればこれを撃破することは連合の艦隊にとって何もよりも優先となる。艦隊を撃破してしまえば星系の制圧に障害はなくなる。
侵攻する艦隊の針路を扼するように連邦が設置した機雷堰がある。啓開のため榴散弾弾頭ミサイルが放たれ艦隊の脅威となる前に排除を図った。最初の機雷堰に対してはこの対応はうまくいった。だが、二つ目からは榴散弾弾頭ミサイルが起爆する前に機雷が作動し、ブドウ弾と徹甲反応弾頭をばらまいた。ブドウ弾と徹甲反応弾頭が連合の艦隊に襲い掛かり損害受ける艦が続出した。大型艦にとっては問題になるほどの損害ではなかったが中小型艦は無視できない損害となるものがあった。とはいえ全体から見た損傷艦の割合は僅かで侵攻をためらわせるほどのものではなかった。
さらに公表されている連邦の機雷の有効射程の遙か彼方で次々に赤外反応が発生。連合の戦術システムを困惑させた。だが、赤外反応の特性が連邦の機雷のものであることが判明し、ブドウ弾や徹甲反応弾頭が艦隊とのコリジョンコースに乗っている可能性があることが判明した。戦術システムは飛来するブドウ弾や徹甲反応弾頭迎撃の必要を指摘した。
連合の指揮官はブドウ弾や徹甲反応弾頭の飛来コースにむかってプローブを展開しアクティブセンシングでブドウ弾や徹甲反応弾頭を警戒させた。さらに発見したブドウ弾や徹甲反応弾頭との軌道交差に備えて総員配置を発令し迎撃とダメージコントロールにあたらせた。
この処置により艦隊の物理的な損害は低いレベルに抑えることができた。しかし、その一方で第11艦隊が目論んだように加速中に何度も発令される総員配置により将兵の疲労は蓄積した。加速中では総員配置が解除され非直となっても十分な休息は取れないからだ。
「総員配置につけ、総員配置につけ」
加速を停止し自由落下状態の艦内に総員配置を告げる艦内システムのアナウンスが流れる。非直の者は休んでいた耐Gカプセルから出て、戦闘部署へ急ぐ。運悪く当直についていた者はそのまま戦闘配置だ。彼らが次に休めるのは戦闘が終わってからになるだろう。
艦橋の共用ディスプレイに表示された艦内配置が更新され、全ての部署が配置につき、艦内が真空状態になった事を示す。
「注意! 注意! 1分後に3G加速を再開する」
加速開始から直交代時の加速停止を挟みながら19時間後、双方の艦隊は互いに秒速約1800キロで真正面からぶつかるコースを進んでいる。
ファウラー中将は自分たちがシミュレーションや訓練を通じて積み上げてきた戦術が連合に対して有効であることを祈るような気持ちで戦術システムの表示を艦隊司令部指揮所の自席で見ていた。麾下の艦隊に対し「撃ち方はじめ」を命じたいま、戦術状況は彼をはじめとする艦隊司令部の手を離れ、各戦隊、各隊の指揮官の手に委ねられているからだ。
カエサル級戦艦、アル・コバール級重巡航艦の艦載艇格納庫から艦載戦闘艇ガーディアンが次々に射出される。彼らの任務は艦隊直掩だ。現段階では中間距離での榴散弾弾頭ミサイルによる迎撃を突破した対艦ミサイルとその分離弾頭を各艦の近接防御システムと協力して迎撃する事が期待されている。敵艦隊との距離がもっと近づき、航過する際には搭載する対艦ミサイル、榴散弾弾頭ミサイルで敵艦、特に高G加速を行って突入してくるものと想定される連合の軽巡航艦や駆逐艦を迎撃する事が期待されていた。
もっとも連邦の内戦終結以降、連合の宣戦布告まで連邦も連合も正規艦隊同士の艦隊戦など行ったことはなく、全てはシミュレーションをもとにした理論で組み立てられた戦術だった。イノウエ少将率いる国境警備艦隊第1任務部隊がH16945星系で行った戦いが現実への適用第1号であり、そこで一定の成果を上げたことは間違いないが、この先、どんな不都合が出てくるか知れたものではなかった。
戦術システムの表示によれば、すでに双方のプローブは戦闘密度で展開され、索敵妨害、弾着観測妨害を企図してプローブ潰しのための榴散弾弾頭ミサイルの応酬がはじまっていた。
そこに牽制のために射出された対艦ミサイルが加わり、榴散弾弾頭ミサイルが迎撃のためにまき散らすブドウ弾、破壊されたミサイル、プローブの破片など、惑星の衛星軌道上であればケスラーシンドローム確実なくらいのすさまじい数のデブリが発生し、それぞれが得ている終末速度のまま双方の艦隊を含めた全方位に突き進んでいく。
双方の艦隊から放たれた粒子砲の加速粒子がデブリを蒸発させながら敵艦隊に向かって突き進んでいく。距離と観測妨害からくる観測精度の問題で、この距離ではなかなか直撃はでない。
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