第2章 開戦 2
「みなさん、司令官です」
国境警備艦隊作戦課第1会議室に国境警備艦隊司令官ロバーツ中将が入室した。
オフライン出席しているものが一斉に起立。彼女が司令官席の脇に立つと出席している軍人全員の右手が上がり腋を締めたいわゆる「海軍式」の敬礼を行う。ロバーツ中将が答礼する。
空席が目立つがこれは半数以上の幕僚が出張中や移動中でオンライン出席していたためだ。彼らはマルタが撃破されて以来、ロバーツ中将の命令のもと、それぞれの場所で国境警備艦隊司令部の裁量の範囲で可能な事前対応にあたっていた。
さらに辺境星域を管轄する最高位の文官としてソコロフ連邦高等弁務官もオンラインで参加している。
「諸君、座ってくれたまえ」
ロバーツ中将が着席し、続いて出席者が着席する。
「これより緊急会議を開催します」
全員が着席したのを確認しロバーツ中将の副官ボレト大尉が緊急会議の開会を宣言した。
「諸君、すでに認識しているものと思うが、宇宙軍総司令部からの情報によれば、今より30分前に連合のトゥラートリ駐連邦大使からゴメス国務長官に対し宣戦布告文書が手交された。これにより、約150分後の連邦標準暦842年10月23日1200時をもって連邦は連合と戦争状態となり、交戦当事国となる」
ロバーツ中将のこの発言にオンライン含めた会議参加者全員に改めて緊張が走った。
「シフィデルスキ宇宙軍長官の命令により我が国境警備艦隊は緊急対処計画B1-A(被戦略的奇襲全面侵攻)に基づく対応を開始する。私は国境警備艦隊司令官として、辺境星域全域に非常事態を宣言する」
各参謀のスタッフが裏で一斉に動き始めた。これ以降、戦時体制として民間企業に対して要請ではなく命令が可能となる。
「連邦保安省警備隊はこれより国境警備艦隊司令官の指揮下に入り、連合の民間船拿捕と各星系国家からの民間人退避の支援に当たってもらう」
「了解しました」
警察組織である連邦保安省警備隊は昔で言えば沿岸警備隊にあたる組織だ。相応の戦力は保持しているが連合の正規軍艦を相手にできるような戦力ではない。
「ソコロフ高等弁務官、各星系国家、植民惑星の連邦弁務官を通じ戦力の拠出と住民待避計画の実行を指示していただくよう要請します」
「了解した。直ちに対応を開始する」
高等弁務官事務所は国境警備艦隊司令部と変わらない規模の人員を擁し、未成熟な星系国家が多い辺境星域の星系国家に駐在する弁務官を通じて星系国家の政府、星系開発企業などを指導、統括している。平時には文民統制の原則に従い、国境警備艦隊司令部は高等弁務官に従属するが、戦時体制となり非常事態を宣言した以降は高等弁務官は国境警備艦隊司令官の要請に従う義務を有することになる。
戦時体制でも軍から民間に対して直接、命令を出すよりも平時同様のルートで高等弁務官事務所を通じて命令を出した方が、以前からの関係性もありスムーズに話が進むことが過去の演習やシミュレーションで確認されているためだ。
国境警備艦隊参謀長ネーグル少将が状況確認を行う。彼はがっしりとした体格と厳めしい顔をした典型的な職業軍人だった。彼とロバーツ中将のコンビはもう十年以上になる。彼女がまだ連邦内の星系国家間航路で通商保護と犯罪組織対処を含む治安維持任務のため巡航艦戦隊を率いていた頃からのコンビだ。その頃から下士官や兵士には二人が並ぶとどちらが司令官か判らないなど言われていたものだが、彼は忠実に己れの職責を全うしてきたのだ。
「シメオ大佐、艦隊の準備状況はどうか」
オンライン参加している兵站参謀が応える。
「現状で、国境警備艦隊所属艦艇の稼働率は各根拠地で定期メンテナンス中のものを含めて90パーセント、弾薬充足率は65パーセントです。定期メンテナンス中の各艦の作業は48時間以内には終わる予定です。根拠地在泊の艦艇については搭載しいてる低威力弾頭対艦ミサイル、プローブクラスターを対艦弾頭ミサイルに置き換える作業にかかっています。これは24時間以内に完了の予定です。しかし今後、帰投する艦艇が増えると特に本星系では民間埠頭も使用しないと作業が滞るものと考えられます」
低威力弾頭は警察行動用だ。正規軍艦を想定した対艦弾頭では犯罪組織の武装船相手だとオーバーキルになってしまう。そのため、起爆出力を低く設定してあった。なお、降ろした低威力弾頭ミサイルはお蔵入りではなく、工廠と協力会社で対艦弾頭に設定変更し、この後帰投する艦艇に回される計画となっている。
高等弁務官事務所のスタッフが発言を求めた。
「民間埠頭の使用に関してはクルマルク4(第4惑星)の衛星軌道上にある埠頭は軍の使用を最優先とするよう港湾管理事務所を通じて手配しますので補給物資の搬入をお願いします。4F、4B(第4惑星の前方トロヤ点および後方トロヤ点)についても工場コロニーの埠頭は同様に優先使用できるよう手配します。国境警備艦隊各根拠地の星系政府に対しても同様に通達します」
「感謝します。民間埠頭が使用できるのであれば、対艦ミサイルの置き換えなど各艦艇の戦備は滞りなく対応可能です。兵站本部からは緊急対処計画に則って対応を開始した旨、連絡も来ておりますので、兵站面では今のところ懸念点はこの点だけです」
「了解した。引き続き中央の兵站本部と連携を頼む」
「アイ・アイ・サー」
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