第2話 老貴族の願い

「私の孫娘、ユメノは去年の年末、何者かに殺害され死体として発見されました。警察の調査で、若い女性ばかりを狙った連続婦女殺人事件の1件だと特定されたのですが、そこで警察の調査は終わっています。私はこの半年間、色々な伝手を使い情報を収集しました。そして、この事件にはイザードという伯爵が関与していることを突き止めました」


「その根拠は?」

「話せば長くなるのですが…… 簡単に申し上げますと、情報屋経由で、若い女性を集めている貴族がいるという話を聞きました。そこから探偵などを活用し、その貴族がイザードという名前であること、彼が女性を攫っては殺害して捨てていることを突き止めたのです。その後、彼が殺した女性が連続婦女殺人事件の犠牲者として扱われていることを知り、孫娘もこいつに殺されたんだろうと確信しました」

「警察には話したのか?」

「ええ、ですがイザードは伯爵。よっぽどの明確な証拠がない限り逮捕は難しいと言われました」


「なるほど。警察はいつも通り動かないと。さて、ローラ、ここまでの話はどうだ?」

「全て真実と思われます」

 女性の方はローラという名前のようだ。そして何かしらの方法で嘘かどうかを判定しているのだろう。カールは情報屋の言う通り正直に話してよかったと思った。


「わかった。では話を進めよう。彼を殺すことで孫娘の復讐をしたいということだな?」

「ええ、それはもちろんです。そして、これ以上被害者が出るのを見たくありません。犯人はわかっているのに動けない悔しさ…… また被害者の家族のことを思うと胸が張り裂けそうです」

「そうだな。これ以上の悲劇は止める必要がある」

「私の依頼を受けていただけるのですか?」

「まだ、確定ではない。こちらで裏どりをして、貴方の主張が正しいか確認する。その上で判断させてもらいたい」

「わかりました。料金はどの程度になりますか?」

「貴族の暗殺は、白金貨1枚だ。」

 白金貨1枚。一般家庭であれば5年はゆうに暮らせる金額である。カールでも中々見かけない貨幣だ。しかし払えない額ではない。


「わかりました。その金額でお願いします」

「よし、じゃあ1週間時間をくれ。その間に調査をして結論を下す。1週間後の同じ時間にここに来てもらえるか?」

「はい、よろしくお願いします。それでは失礼します」

 カールは部屋を退出し、店から出て行った。ここまで話していたのはヨスバのリーダー、ランスである。ランスは葉巻に火をつけ、一服する。

「さて、とりあえず話は全て本当だったということでいいんだな?」

「はい、ご老人が意図して嘘をついている様子はなかったです。内容についてはいつも通り、精査が必要ですが」

 ランスの問いに答えるのはローラ。ヨスバの情報収集を担当している。また、話し手の嘘を見破る能力を持っているため、このような打ち合わせには必ず呼ばれることとなっている。


「イザードという伯爵は知っているか?」

「はい、知っています。あまり評判が良くない貴族であることは有名です。特に女癖が悪く、何回もトラブルを起こしています」

「なるほど。まあ女癖が悪化して殺害するようになったかどうかだな。とりあえず調査を頼む。1週間後に知らせてくれ。いつも通り依頼者と同じタイミングで話を聞く」

「了解しました」


 1週間後の約束の時間。カールはまたアイリーンの個室を訪れる。待つのは変わらずランスとローラである。

「お久しぶりです。いかがでしたでしょうか?」

「ローラ、説明してくれ」

「はい、結論から申し上げますとカール殿が話されていることは事実と判断しました。護衛達が婦女を連れ去り、イザードの元に連れて行く、そしてその後死体を処理する姿を確認しています。話を聞く限りですが、イザードに嗜虐趣味があるようで、殺人に興奮を覚えているようです」

「警察が動かない理由は?」

「警察幹部とのコネクションが強いため、と推測されます。上層部からこの事件については優先度を下げるよう指示が出ている、と警察関係者から話を確認しています」


「なんと…… そんな裏があったのですね……」

「被害者は多いのか?」

「現時点で確認されているのは6名です。短期間で殺害を続けたため、今は警戒しているようです。ただ、ほとぼりが冷めればまた実行するでしょう」


「わかった。この依頼は受けると判断した。イザードという屑を消し去って、この世を少し良い世の中に変えることにするか」

「ありがとうございます!大変だと思いますがどうかよろしくお願いします!」

「任せて置いてくれ。ただ爺さん、間違ってもこの依頼については誰にも話さないでくれよ? 俺達は正義を追求する組織ではあるが、あくまで裏の組織だ。裏のルールとして、裏切りにはしかるべき報酬が与えられる。そこは誤解しないでくれ」

「報酬、ですか?」

「ああ、爺さんの家族を全員殺すことも出来るし、罪をなすりつけて没落させることも出来る。裏切りにはそれに釣り合った報酬が与えられるということだ」

「…… 大丈夫です。私は誰にも話しません」

「私は誰にもこのことを言わないしヨスバを裏切ることもありません、宣言できるか?」

「私は誰にもこのことを言わないしヨスバを裏切ることもありません」

「なら良い。結果を楽しみにしておいてくれ」

 《《》》

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