最強の裏組織が世界の悪を打倒する
だいのすけ
第1話 暗殺依頼
バサギット王国の夜。既に日は落ち、暗くなった道を早足で歩く老人がいる。老人はメモを見ながらキョロキョロと周りを見渡している。明らかにこの周囲には似つかわしくない上品な服を身にまとっている。目的の店を見つけた老人は中に入る。そのバーの名前はアイリーン。少し古びた、しかしお洒落な店内で女性のバーテンダーがお酒を作っている。
「いらっしゃいませ、1名様でしょうか?」
「いや、待っている友がいる。個室だと聞いているが」
「ああ、個室ですね。かしこまりました。お連れの方は既にお待ちです」
バーテンダーの女性から指さされた方向にはバーには珍しい扉付きの個室がある。老人はドアを開けると中に入った。
「正義とは?」
中に入ると同時に、男から声をかけられる。老人は情報屋から聞いた通りの言葉を口にする。
「全てである」
「わかった。座ってくれ」
少し暗い部屋の中には男と女が1人ずつ座っている。どちらも20歳から30歳程度に見える、若い男女だ。老人は男に言われた通りに座る。老人にはこのような裏仕事の経験はない。しかしどうしても必要なため利用した始めての機会だった。
「さて、改めて要件を聞こう。まず名を名乗れるか?」
「ええ、私はカールと申します。この王国の子爵です。今回は皆様にとある貴族の暗殺をお願いしたく。名前はイザードで、階級は伯爵です」
「なるほど。理由を確認させてもらおうか」
男は淡々とした様子で質問を投げかける。カールは苦笑しながら答える。
「やはり、理由を気になさるのですね。聞いていた通りです。ヨスバは正義を重視する組織だと」
「ああ、知っているのであれば話は早い。我々はなんでも屋ではない。金銭はもちろんだが、絶対の基準はその依頼を受けることが正義の執行に繋がるか、だ」
「なるほど。正義の執行とは深淵なテーマですね。私にとっては眩しく感じます。私が実行できなかったことですから」
「気にすることはないさ。そのためには大いなる力が必要だ。可能な人間は限られている。だからこうして我々は依頼主の希望に応え、正義を代行するわけだ」
老人は情報屋に接触した時のことを思い出していた。
「その依頼を実行してくれる暗殺者を見つけたいんですね? 何人か候補はいますが…… 貴族の暗殺となると嫌がられる可能性が高いです。言うまでもないですが私兵や護衛が多く難易度が高い上に、一般人と比べ、警察の捜査が厳しくなりますからね」
「わかっている。金ならいくらでも出すからなんとか探し出してくれ」
「暗殺者も金よりも自分の身が大事ですからねえ…… 一つ確実な候補はあります。ただ…… 貴方の依頼は正義の行為ですか?」
「ああ、法律の罰を受けずにのうのうと生きている悪人を殺すんだ。それが正義ではなくて何が正義なんだ?」
「であれば、良い組織を紹介しますよ。ヨスバという組織です。お金はかかりますが、依頼の成功率は極めて高いです。少数精鋭のプロフェッショナル集団に近いかもしれません。ただ…… 少し変わっていまして。彼らは「正義」かどうかを依頼を受ける絶対軸に置いています。彼らが納得しない限り依頼を受けることはありません。それでも良ければ紹介しますが」
「わかった、そのヨスバという組織で頼む。すぐに繋いでくれ」
「わかりました。ただ、絶対に嘘はつかないでくださいよ? ヨスバは嘘を嫌い、正直な人間を歓迎します。昔嘘をついて依頼をした貴族がいたのですが、バレた瞬間にその貴族は殺され、その貴族を紹介した情報屋も消えました。私も同じ目には会いたくないですからね。大丈夫ですか?」
「ああ、大丈夫だ。嘘は絶対につかないよ」
「彼らはいわゆるこの国の裏で活動する組織になるのですが、かなり異質な集団です。間違ってもごろつきやギャングと同じ扱いはしないでくださいね? 紳士的な対応と誠実な発言、そして正義が彼らと向き合うための必要要件です」
「ありがとうございます。貴族を暗殺というと暗殺者に嫌がられまして、困っていたところに貴方達を紹介いただきました。感謝しかないです」
「貴族の暗殺は我々にとって造作もない。綺麗に殺すことはできる。バーナード家、ラムジー家、アメンドーラ家の事件は全て我々が関わっている、といえば納得してもらえるか? ただ、まだ依頼を受けると決まったわけではないぞ。全ては依頼の理由に依存している」
バーナード家、ラムジー家、アメンドーラ家の事件。貴族であるカールはよく知っている。ある日を境に護衛や私兵が全員行方不明になった家だ。事件後に違法な奴隷売買に関わっていたことが明らかになり、王国を揺るがす1大スキャンダルとなったことでも有名な話である。あの事件に裏にはヨスバが関わっていたのか、カールは驚きを隠せなかった。同時に、この組織なら信頼できそうだ、とも考える。カールは暗殺の理由を話し始めた。
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