指 [SF・ホラー]
未知なる惑星ロス128bの大地に降り立った。
私は移住できる惑星を求めて旅をしてきた調査員である。
ここまで順調に任務を遂行して来たのだが着陸でしくじってしまった。
想定外の空気抵抗に晒されたクエスター号はコクピットを残して大破してしまった。
生き残ったのは私ただ一人。奇跡としか言いようがない。
しかし、帰路は経たれてしまった。
ここで生き延びて救助を待つか、もしくは永住するか…。
落ち込んでもいられないので、大気の成分や生態系を調査することにした。
この惑星は見渡す限り、奇妙な生命に覆われている。
我々の惑星で言うところの植物にあたるものであろうか。
これらが食料となるのであれば、私は生き延びることができる。
着陸時にAIも失ってしまったので私はすべてを独りで行わなければならなかった。
幸い成分調査キットは生きている。
この惑星の大気を解析させると、呼吸をしても問題ないとの結果が出た。
私はヘルメットのシールドを開けた。
ロス128bの大気が流れ込んでくると、甘ったるい香がした。
それ以外は地球で呼吸するのと変わりないように感じた。
この匂いはまわりの生命から発せられているのだろうか。
食べることができそうな香だ。
私はそこら中に生えている奇妙な生物に近寄った。
奇妙な生物はやはり植物のように思えた。地球でいうと多肉植物といった感じだろうか。
太い茎状の芯に、肉厚の葉のようなものがいくつも連なっていた。
それらの葉を見て私はギョッとした。
どれもこれも人間の指とそっくりだったのだ。
緑や紫、茶色など様々な色をしているが、どれも完全に指だった。
私は念のためにヘルメットのシールドを下ろし、指の一部を削り取って解析用パッドに破片をこすりつけた。
切り取った面からは真っ赤な液体が流れてきたので、気分はあまりよくなかった。
数秒経って解析結果が出た。
いくつもの分子式が並ぶ。
「つまりこれは…」
地球のリンゴとほぼ同じ成分だった。
特に毒と思われる物質は含まれていない。
…食べても平気そうだ…。
私はしばらく考えてから、ヘルメットのシールドを再び開けて、指にそっくりな生物を切り取った。
赤い液体がドバドバと流れ出て不気味だった。
それでも生きるためだ、私は恐る恐る指を口に運んだ。
目をつむって咀嚼すると、感触はグミのように弾力があるが味はリンゴだった。
…うむ、これなら食べられる。
私はいくつか指を切り取って食べた。
すると急に猛烈な眠気に襲われて、その場に倒れてしまった。
再び意識を取り戻すと、あたりは真っ暗でどうやら夜になってしまったようだった。
ヘルメットの中で何かがガサガサ音をたてた。
私は慌ててヘルメットを脱ぐとライトをつけた。
顔の周りに違和感があり触ると、顔中から何かが生えていた。
私は悲鳴をあげてその一つをむしり取り見ると、それは指だった。
私の顔一面に、あの指が生えているのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます