世界の終わりに [ラブ&ホラー]

遠子は走った。満月が照らす月明かりの中を。


どこからか長い汽笛の音が響いた。


冬の一番寒い日、砂糖菓子を愛するものに食べさせると願いが叶うという。

遠い遠い古の伝承だ。


遠子は調理場からくすねたひとかけらの砂糖菓子を握りしめ、寒空の下、裸足で彼の元へと走った。


遠子の想い人は呪い持ちになってしまった。

見つかれば殺されるので村外れの廃墟に匿った。


呪い持ちだって人であることには変わりないのに、いずれ悪魔になると人々は信じ恐れていた。


「ユウくん、来たよ」


天井の崩れ落ちた廃墟の、かつて台所だった場所に入り込みながら遠子は言った。


奥の方から唸り声が聞こえた。


「今日は特別なものを持ってきたよ、これ食べて」


暗がりに向かって砂糖菓子を握りしめていた手のひらを差し出す。

砂糖菓子はベトベトに溶けてしまった。


瓦礫が折り重なっている隙間からゆっくりと彼が出てきた。


痩せ細って薄汚れているが、眼光だけはやたらと鋭い少年だった。


少年は鼻をヒクヒクさせると、遠子の手のひらにくっついた砂糖菓子をなめ始めた。


遠子の想いがこもった菓子をなめ尽くしても少年は元の状態には戻らなかった。


それがわかると、遠子は涙を流して少年の体をそっと抱き寄せた。


少年は空腹が満たされなかったので不満げに唸り声をあげた。

遠子はポケットから肉片を取り出すと少年に与えた。


少年はむしゃむしゃと肉を食べた。


体を丸めて肉を喰んでいる少年の背中を遠子は頬を寄せた。


また遠くで汽笛が鳴った。


見上げると、巨大な満月の前を銀河鉄道が横切っていくところだった。


遠子は思った。

いつかお金を貯めてあれに乗る。そして行くんだ。


どんな呪いも解いてくれるというアンチカースという医者がいる星へ。

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