5.☆サナの手紙

 夜、すべての準備を終えて、机に向かった。


 便箋を前に、指が震える。

 手紙なんて小学生以来で、書けるかどうか不安だった。


 でも今は自分の手紙じゃない。サナの気持ちをペン先にのせて、お手伝いをするのだ。

 それにサナの言葉は、書いていると文字が躍っているようで、気が付くと無心で書き始めていた。

 サナが私と一緒に手紙を書いているように思えた。



『親愛なる有馬くんへ


 いきなり私が手紙なんて、全然キャラじゃなくて驚いてますか? 私も自分で書きながら、けっこう照れました(笑)

 でも、有馬くんに、今思っていることをきちんとした形で伝えよう! って思って、この手紙をおくります。


 初めて委員会で話した時のことを覚えていますか? 好きなおにぎりの具なんて、今思えばめちゃくちゃ子どもっぽい質問ですよね。恥ずかしい! 

 でもそのとき有馬くんは、そんな私をばかにしたりせずに、真面目に答えてくれたのを覚えています。


 私って普段からこんな感じなので、真面目に言っているのにふざけてるって思われて、悲しくなっちゃうことがあるんです。有馬くんはいつも最後まで真剣に聞いてくれて、本当にうれしいです。ありがとう~(泣)


 有馬くんは本当にたくさんのことを知っていて、歩く辞書&教科書&地球儀みたいだなって思ってます。私が知らない言葉もたくさん教えてくれましたね。


 もし、いつか、無理にとは言わないんですけど、有馬くんの書くお話に私を出してもらえたら、とってもハッピーです。


 有馬くんの大人っぽい話し方、いっぱい知っているところ、私が言いたいことをうまくまとめてくれるところ、ぜんぶぜんぶめっちゃ好きです。本当に誰にも負けないくらい大好きです!


 さいごに、委員会がいつも本当に楽しみです。私の一番好きな人に会えるから! また、委員会で会いましょう!     

                                サナより☆』



 日付をまたぐまで、私は机にかじりついていた。

 書き終わったとき、春の日差しみたいに柔らかくほわんとした気持ちが、胸いっぱいに広がった。


 サナはさっそく今週の委員会で有馬くんに手紙を渡したらしい。

「どうだった?」

「ありがとうって。塾終わったら家で大事に読むって言ってた!」

 サナは清々しい笑みでいちごミルクを飲んでいた。感触はバッチリだったようだ。

「書いててなんか私も告白してるみたいでドキドキした。いいね、これ」

「ね、いいね、なんか」

 その日はお疲れ会ということで、パフェを食べた。


「あ~テストだり~」

「ねえ休みの日に思い出させないで」

 週末、私は隼人の家にお邪魔していた。この前のいちごのお礼……といっても、金欠の私に菓子折りなんて持っていけないので、せめておばあちゃんに顔を見せにってことで。

 おばあちゃんは大いに喜んで、自家製の漬物や具沢山カレーを次々と食卓に並べた。大家族みたいな量になったけど、育ち盛りの隼人があっという間に平らげてしまった。


 そんな隼人は今、ベッドで少年漫画を読んでいる。私はキャスター付きの椅子に座ってなんとなく回っていた。

 漫画、教科書、部活の道具。学年が上がるにつれ、少しずつ置いてある物たちは変わっていくけれど、根本的なところは変わっていない。


「ねえ隼人ってさ~」

「ん」

 ページをめくる音の合間に返事が聞こえる。

「クラスの女子と仲いい?」

 なんとなく、ただ気になっただけだ。でも聞いてしまってから急に心臓が音を立て始めたので、隼人に背を向ける。


「別に。つーか、ふだん女子と話すこともないし」

 当たり前のように答えるので、私も「だよね」とだけ言った。

 少し、ほっとする。

 沈黙。ページをめくる音。


「え、急になに?」

 気づけば隼人は漫画を枕元に置いてこちらを見ていた。

「え?」

 突然の問いに、焦り。

「なんの調査だよ」

 隼人はいぶかしげに目を細めている。この目には、いつも見透かされてしまう。


「べ、別に。サナが空手部モテそうとか言ってたから」

 少し話を盛ってサナを巻き込むことにした。心の中で謝る。

 すると、隼人は「なんだ、あいつか~」と納得して、また漫画に戻った。


「え?」

「なんか時々意味深な目で見てくるんだよな~。そういうことか。別にモテねーし。モテるためにやってるわけでもない」

「ひゅ~かっこいい~」

「絶対思ってねーだろ」

「思ってる、思ってる」

 クッションが飛んできたので、投げ返す。

 しょうもないことでお腹を抱えて笑って。

 これくらいでいい。

 隼人とは、こんな感じで、ゆるーくしょうもなく、一緒に笑っていられたら。


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