第10話 手作りザッハトルテ
☆有山智サイド☆
アイツが。
佳奈が自分の姉にケーキを買ってやった。
俺は購入するその姿を見守りながら笑みを浮かべる。
それから佳奈と別れ俺も帰宅してから自宅に帰ってドアを開けると。
鍵が開いており。
会社に行っている筈の母さんが出て来た。
そして笑みを浮かべてくる。
「智」
「え?母さん?どうしたの?」
「仕事を少しだけ早めてね.....今日はどうだった?」
「今日の学校?.....うん。良かったんじゃないかな.....きっと」
「晴々としているわね?何か良い事でもあった?」
母さんの有山美里(ありやまみさと)。
40代だ。
顔立ちはかなり柔和な感じである。
そして笑顔が絶えない性格だ。
俺は母さんは好きだ。
何故なら母さんは優しいから。
だけど忙しくてあまり家に帰って来ないのだが。
こんな早い時間に今日はどうしたのだろうか。
思いながら母さんを見る。
すると母さんは俺の様子を見ながら微笑む。
「今日ぐらいはって上司に進言してね」
「.....そうなんだね。.....そんな事をしなくても良いのに」
「私は心から貴方の事が心配なのよ。智」
「.....それは分かるよ。母さんはいつもそんな感じじゃないか」
「そう言ってくれて有難うね」
俺は母さんに笑みを溢す。
すると母さんは、お菓子作ったのよ。食べて。ザッハトルテ、と答える。
え!?、と思いながら母さんを目をパチクリして見る。
ザッハトルテ.....久々だな。
「久々だねそれ。数年ぶりぐらいじゃ?」
「そうね。.....智。.....貴方が1年間引き篭もった時。私は何もできないって思っていた。.....今貴方はとても頑張っているから。だからその分こうして奉仕したいのよ」
「.....!」
「.....2年前の事。御免なさい」
「母さん.....」
既に母さんが言ったが。
俺は1年ぐらい引き篭もり不登校になった。
その原因は分かる。
塾でのイジメと言える。
だから笑顔が消えて俺は学校に行けなくなった。
「.....貴方は貴方らしく伸び伸びと活かす必要性があったのよ。.....私が馬鹿だった」
「俺はあまり気にして無いけどな。.....でも有難う母さん」
「貴方が気にしてなくても私もお父さんも.....」
肩を落として泣き始める母さん。
俺はその姿を見ながら眉を顰める。
そして母さんの肩に手を添えてから母さんを抱きしめる。
それから母さんの肩で涙ぐむ。
母さんは優しいね、と言いながら。
「当たり前でしょう。母親は息子を心配するの。子供は宝物よ」
「.....そうなんだね」
「ええ。.....でも本当に貴方は良い子に育ったわね」
「.....母さん.....」
「さあ。智、手を洗って。それから早速ザッハトルテ食べましょう」
母さんは満面の笑みを浮かべながら俺の背中を押す。
それから俺に向いてくる。
俺はその姿に頷きながら笑みを浮かべる。
ザッハトルテは母さん。
つまり母親の得意な分野の作品なのだが。
作ったのを見たのは5年ぶりだ。
それもこんなに真剣に作ったのはハッとして思ったけど7年ぶりでは無いだろうか。
思いながら俺は嬉しくなりつつ手を洗う。
母さんも居るから何だか更に楽しい。
男はみんなマザコンというが。
本当にそうなのかもな。
気持ち悪いかもしれないが事実だ。
☆
「母さん。こんなに本格的なザッハトルテは7年ぶりじゃない?」
「.....そうね。今まで時間が無かったから作れなかったわ。.....だけど今日は記念すべき日だからちゃんと作って貴方に贈りたかったの」
「記念すべき日って.....変な感じだ」
「私にとっては記念すべき日で。愛すべき日。.....貴方が一歩を歩み出した日」
「.....確かにそうだけど」
俺は苦笑いを浮かべながらザッハトルテを見る。
実はザッハトルテが好物では無い。
何故ならこれまで食ったやつは味がブラックな苦いものばかりだった。
でもただ単なる食わず嫌いというやつだ。
だけど母さんの作ったザッハトルテは話が別だ。
味が絶妙である。
俺と味覚が似ているんだと思うけど。
「.....やっぱり美味しい。ザッハトルテ」
「そうね。砂糖が沢山使われているからあまり食べれないけどね」
「そうだね。母さん。.....でも凄い美味しい。流石は母さんの手作りのお菓子だ」
「.....そう?.....貴方にお嫁さんが出来たら存分に褒めてあげなさい智。それは喜ぶわよ」
「嫁さんか.....まあ出来ないだろうけどね」
今は、と言いながら俺は俯く。
そして小さな手に持っていたフォークを置いた。
すると母さんもフォークを置く。
それから俺を見てくる。
大丈夫よ、と言いながら。
「私はこの先も、貴方は結婚しないのか?、なんて問い詰める気もないし。.....早すぎるしね」
「.....母さん.....」
「貴方は貴方らしく自由に羽ばたいて生きてね」
「有難う。母さん。自信が多少は持てたよ」
それから俺は苦笑しながらフォークを持ってからまたケーキを食べる。
とは言ってもこれ以上は食べると夕飯に響くか。
思いながら俺はそのままザッハトルテを少しだけ食べてから。
紅茶をまた飲んだ。
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