第8話 空白の7年への怒り

☆上原佳奈サイド☆


ショートケーキとモンブランを見る。

私はその2つのケーキと智くんがミルク紅茶を注文した。

そんな様子を見ながら私もミルク紅茶を注文する。

そしてそのケーキ2つと紅茶がやって来た。

智くんは食べながら驚いた顔をする。


「これは確かに美味しいな」

「そうでしょ?何だかガイドブックにも載ったお店らしいから。チェーン店で新しく出来たばかりだけど」

「.....そうなんだな」

「私はこの場所に智くんと最初に来たいって思ったから」

「良いけど何故俺なんだ?最初が」

「そ、それは.....何でも良いでしょ。別に」


そう何でも良いのだ。

だけど智くんと一緒に行動したいからだから連れて来たのだ。

私はヒーロー君と2人きりで来たいと思っていた。

これで良いのだ。


「お前は謎だらけの人物だな」

「ミステリアスでしょ?.....悪くないなぁ」

「そうだな。ミステリアスだ。お前は謎だらけだよ本当に」

「えへへ」


褒めているのか貶しているのか分からないけど。

でも私はこれで良い。

智くんと一緒に居られる。

これ以上の幸せは無い。

思いながら智くんを見ていると智くんはモンブランを食べ始めた。


「一口残してね」

「そ、そうだな.....っていうか良いのか佳奈」

「え?」

「これ間接キスだぞ」

「.....」

「.....」


私はボッと火が点いた様に赤くなる。

それから、だ、黙って。私は知っていたけど、と慌てる。

すると智くんは、そ、そうか、と沈黙する。


そして気まずい時間が流れ始める。

その事に私は耐えられなくなり顔を上げて、あの!、と切り出すと。

智くんも、あの、と切り出していて。

私達は言葉が被る。


「.....あはは」

「えへへ。同じだね」

「ああ。そうだな。.....で。そっちから言ってくれ」

「あ、えっとね。.....7年間.....の。向こうの町はどうだったかなって」

「.....ああ。それか」


智くんは何か悲しげに沈黙する。

ヤバい板を踏み抜いた様な感じがあった。

私は、ご、ごめん、と言いながら俯く。


すると智くんは、気にするな。知らなかっただけだからな。お前も、と顔を上げて私を見てくる。

私はその顔に。

どうしても聞かなければならない気がした。


「この7年間で何かあったの?」

「.....7年という月日は長い様で短かったんじゃないかな。.....俺にとっては長すぎた気がしたけどな」


智くんは言いながら俯く。

紅茶の湯気だけが時間を教えてくれる中。

実はな、と数秒後に智くんが話し出す。

それから私を見てくる。


「2年ぐらいイジメに遭っていてな。それで精神を病んでしまって」

「.....え.....」

「今は精神科に通院しながら薬を貰っていてな」

「.....」

「でも気にするな。もう大丈夫だから」

「.....何それ」


私は静かな怒りが満ちる。

そしてカタカタとテーブルに乗せている手が震え出す。

何それ。


私が好きな人にそんな事をする?普通。

人を何だと思っているのか。

そう思っていると智くんが私の手を握りしめた。

それから真剣な眼差しを向けてくる。


「落ち着け佳奈。こんな下らない事で怒るな」

「でも.....智くん。許せない。本気で」

「怒ってどうする?過ぎた事だ。.....もう会わないしな。アイツらにも」

「.....あり得ない。.....智くんをイジメるなんて.....クズめ」


私も大概のゴミクズだが。

それはもっとゴミクズである。

思いながら私は静かに怒りを堪える。

それから気持ちを落ち着かせて智くんを見てみる。


「.....智くんは許したの?」

「決して許してはないな。だけどもうキレても仕方がないかなって思っているだけ」

「.....智くんは本当に大人だね。私はキレそう」

「有難いけど。お前がキレる姿は見たくない」

「.....そういう所が変わらず優しいね」


そして私はショートケーキを食べる。

それから、智くん。気にしないからモンブラン食べて良い?、と聞いてみる。

智くんはその言葉に、分かった、と言う。


すると智くんはモンブランを差し出してくる。

そのモンブランを食べ.....ようと思い止める。

ニヤッとした。


「ね、ねえ」

「.....な、何だ」

「.....食べさせて」

「な!?」


食べさせて、とはどういう、という感じで戸惑う智くん。

私はその様子に、言葉通りの意味だよ、と答えながら手をブラブラさせる。

ショートケーキを食べるので疲れちゃった、とふざけて言う。

智くんは、も、もうちょい頑張れよ、と言ってくるが。

えー、と言う。


「智くんが居るし」

「.....お前なぁ.....」

「えへへ。ささっ。お代官様」

「.....グゥ.....」


智くんは諦めた様にモンブランをフォークに乗せる。

それから私の口元に持ってくる。

そして食べさせてくれた.....というか。

何だかこれめっちゃ恥ずい。

イチャイチャのバカップルなの?


「お前な!真っ赤になるな!?」

「思った以上に恥ずい」

「だったら初めからやるな!?」

「えへ。えへへ。でも最高の思い出になりそう。有難う。智くん」

「.....はぁ.....」


そして私達はイチャイチャをしつつ。

ケーキや紅茶を満喫した。

正直言ってこういうチェーン店のケーキは結構食べたつもりだ。

だけど今日の全てのケーキが。

生まれて初めての美味しさを感じた。

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