第5話 調子に乗るな

☆有山智サイド☆


佳奈と佳菜子。

この2人の事は本当によく知っている。

というか知らない方がおかしいが。


考えながら俺は佳奈をチラ見してから外を見る。

懐かしい記憶である。

あれでももう7年も前の話なのだな。


「.....」


今、俺が昔より髪の毛を伸ばしている理由。

それは理由がある。

実は俺はあまり人言えないが。


うつ病である。

なので人付き合いが苦手やら.....こんな感じになっている。

2年前に発症した。

それから俺はうつ病に苦しみながら薬を飲んでいる。

だけどこれは佳奈と佳菜子のせいじゃない。


それだけは言い切れる。

確かに酷い事はされた。

あり得ない事をされたのだが。

だけどちゃんと謝っていたのだ2人共。

近所付き合いで.....中が良かった。


うつ病を発症した原因。

それは簡単だ。

俺がイジメられていたから、だ。


それで発症してしまった。

当時通っていた塾での事だが.....、とそう考えていると。

女子がやって来た。


「ね、ねえ」

「佳奈。どうした」

「今度.....その。.....け、け、け」

「.....け?」


小さな声で囁く様に言ってくる。

赤くなりながら.....俺に。

ケーキ屋に行かない?美味しいケーキ屋。

実は開店したばっかりで.....、と笑みを浮かべてくる。

可愛らしい笑顔だった。


「.....でも良いのか。他の仲間.....」

「い、良いの。私が行きたいの。貴方を連れて」

「俺を連れて?」

「そう。智くんを連れて行きたいから.....」

「.....」


俺は背後をチラ見する。

何だかあまり良くない視線を感じる。

周りからも良くない視線だ。

俺は溜息を吐いてから、いいよ。他の仲間と行きな、と立ち上がる俺。

それからそのままトイレに向かおうとした時。


「嫌だ」


と声がした。

背後を見ると悲しげな顔をしている佳奈が。

まるで置いて行かれる子猫の様な。

そんな顔だった。

俺は、???、を浮かべながら佳奈を見る。


「.....一緒に行きたいから」

「.....か、佳奈?」

「私は一緒が良い」

「.....!」


俺は衝撃を受けながら周りを見る。

周りは、何事か、という感じになっていた。

それに対して佳奈は、学校の説明を彼に、という感じで解説する。

俺はその姿を見ながら溜息を吐く。


「.....佳奈。後でな。分かったから」


そして俺はそのまま去る。

暫く頬が赤くなっているのを何とかする事が出来なかった。

佳奈の馬鹿野郎め。

俺は孤独が好きなのに。

そうだった筈なのに。


「.....全くな。何が起きているんだか」


そんな事を考えながら男子トイレに来る。

それから俺はトイレを済ませ。

手を洗ってから表に出ると.....リア充が2人立っていた。


王山とかいうのと別のグループの男子2名。

何だコイツら、と思っていると。

壁ドンをした。


「.....なあなあ。お前調子乗ってね?」

「.....はい?」

「あくまでさ。佳奈ちゃんは俺達のアイドルなんだわ。邪魔してもらっちゃ困るんだけど。インキャの分際で」

「そうそう」

「.....」


俺は、そういう事か、と思いながら囲まれる中。

2人に向く。

それから、あくまで俺は何もしてない。それからそういうつもりも無い、と答える。

リア充はその言葉にニコニコした。


そして、そっかそっか、と帰って行く。

最悪なもんだなああいうリア充は。

まるでヘドロの海に突き落とされた気分だ。


俺はそう思いつつそのまま踵を返した。

それから教室に戻ると。

佳奈が周りに囲まれていた。


「佳奈ちゃん。俺とデートしない?」

「そうそう」


そんな感じで.....だ。

それもそうか。

佳奈はあくまで有名人だもんな、と思う。


可愛いしな、とも。

俺はそれを思いながら椅子に腰掛けていた.....のだが。

聞いていると何だかムカムカし始めた。


「えっと.....いや。良いです」

「そんな事言わないでさ。何?ディ◯ニーランド嫌い?遊園地とか」

「.....いや。そういうのじゃないですけど.....」

「良いじゃん!佳奈!琢磨くんだよ!?このチャンス逃すと.....」

「そーそー!テニス部の部長だよ!?」


そんな感じでワイワイ盛り上がっているが。

佳奈は困惑して嫌気が差している様に見えなくもない。

俺はリア充と関わり合いたくないのでそのまま見ていたが。

佳奈の腕を掴んできた。


「かーなちゃん。ね?行こうぜ」

「は、離して下さい.....」

「俺も付き合うしさ。合コンしようぜ」


あまりの状態の酷さに。

俺はカチンときた。

それからこんな事はやりたく無いが、と思いながら自らの机を倒す。

すると周りに、ドシーン!!!!!、と激しい音が鳴る。

まさかの展開に周りも唖然とする。


「すいません。貸していた教科書落としたもんで。取ろうとしたら」


リア充達は顔を見合わせる。

そして俺は、佳奈。教科書借りていたよな?、と笑みを浮かべる。

勿論全て演技である。

こうして大きく音を鳴らす事によって。

周りに知らせているのだ。


「え.....あ、うん!」


佳奈は大喜びで反応する。

それから、数学の教科書だよね、とノリに乗ってくれる。

俺はその事に、ああ、と返事をしながら教科書を貰う。

そして俺の横に腰掛けてくる。


ごめんね。彼に勉強を教えるから。約束していたから、と笑顔になった佳奈。

リア充達は妬みいっぱいで俺を見ている。

その姿に若干恐怖を感じたが。

それでも佳奈を救えたと思ったら。

満足でしか無かった。


「ありがとう」

「.....?」


ヒソヒソ声で話してくる佳奈。

それから、やっぱり君はHEROだね。変わらないや、と笑顔になる。

めいいっぱいの花咲く様な笑顔を。

にしし、と言いながら。

俺はその姿に赤面しながら頬を掻いて机を起き上がらせた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る