第4話
誕生日パーティ会場に着く。中に入ろうとするが、当然入口で止められてしまう。
「招待状は?」
「ケイトさんの知り合いだ!」
「招待状がなければ入れませんよ」
「そう言われても……」
(せっかくここまで来たのに!なにか代わりのものがないか……?……あ!)
ズボンのポケットに入っていたのはケイト直筆のパーティの招待状だ。
(え?なんでこんなところに?まあいいか、助かった!)
「おお、これはケイトさんが書いた招待状ですね。どうぞ」
走って中に入る。煌びやかな装飾の内装に目が眩む。
「ストワード第二ホテル……ケイトさんは3階にいるんだったな」
走って階段を上がる。このホテルには大勢の人がいて、エレベーターは順番待ちだった。
「これより、ペイルズさんの誕生日パーティを行います。まずはペイルズさんからご挨拶をどうぞ」
「はい。皆さん、今日は集まってくれてありがとう。最高級のワインと最高級の食事を用意したからね。楽しんでくれ」
歓声が上がる。
「あぁそれと、今日は恋人のケイトから重大発表があってね。……ケイト」
「はい……」
ケイトがマイクを渡される。美しいドレスを身につけているが、手が震えている。
「どうした?緊張しているのか?はっはは、そりゃあそうだ。私たちの今後を皆に発表するんだからな。もちろん、喜ばしいことだがね」
会場内がざわめく。
「えっ、もしかしてそれって……」
「結婚?だとしたら大ニュースになるね!」
「うわー!この2人が結婚するのか。すごくお似合いだよ」
ケイトは俯き、下唇を噛む。
「ケイト、ここには報道陣もいる。迅速に発表するんだ」
「分かりました……。私、ケイトとペイルズさんは……、」
「ちょっと待った!!!」
大きな音を立て、扉が開く。
「ケイトさん!」
「ドミニオくん!?」
ドミーは息を切らし、汗びっしょりのまま2人に近づく。
「なんだ君は。今は重要な発表を、」
「結婚なんて、させねーから……」
怖い。自分よりもずっと立場がある、芸歴がある、誕生日パーティにこんなに人が集まる男に立ち向かうなんて。
(ガラじゃないよなー。分かってるんだが)
ただ歌えれば良いはずだった。父のように、ただ自由に生きられれば良いはずだった。他の人のことなんてどうだって良いはずだった。
(だが、黙ってられないよなー……!)
「その男は悪い噂がある。だが、真実は分からない。そもそもあんたが好きな男ならそんなこと関係ないのかもしれない」
「つーか、俺なんかよりもずっと偉い人だよな。笑っちまうくらい、敵わないよなー……」
「それでも……」
少しでも自分があなたのためになにか出来るのならば。
「あんたのために歌う。俺にはそれしか出来ないから」
―あなたは私に出来ないことが出来るわ。
アカペラで歌う。爽やかな声で、熱い歌詞を。こんなパフォーマンス、きっと青臭い。でも、ケイトは自分の歌が好きだ。だから
「ありがと。やっぱりあなたは私にあなたが出来ないことが出来るわね」
ケイトがドミーに近づく。声のトーンは戻っていた。
「ビックリしちゃったわ。どこか冷めてるあなたが、私のためにこんなに素敵な歌を聞かせてくれるだなんて」
会場内は何が起こったのか分からないという雰囲気だ。ドミーの歌声に聞き惚れていた報道陣も、何をメモすれば良いのか分からなくなっている。
「ごめんなさいね。私、ペイルズさんと結婚するつもりはないわ」
どよめきが起きる。
「脅されてたのよ。ここで発表しないと酷いことをするって」
やはりDVを受けていたのだ。
「怖かった……今までずっと。週刊誌に撮られたのだって、ただ一緒に歩いていただけなのに。ペイルズさんが『ずっと前から付き合っていた』って言うから、逆らえなかった……」
「こんな男、最初から好きじゃなかったわ」
冷たく吹っ切れた、だが、明るい声。これはケイトが得意な声のトーンだ。サバサバしたOL役の演技でよく聞くそれである。
「あなたのおかげでスッキリしたわ」
「じゃあ、」
「そうね。もうあの男とのお芝居は終了」
「はははっ、良かったー……」
ドミーの力が抜ける。その場に膝をついてしまう。弾かれたようにそれを連写する報道陣。
「こ、これは大スクープだぞ!」
「俳優ペイルズと女優ケイトが破局!誕生日パーティに乱入したのは……!」
「っ……私は暴行などしていない!あの記事はデタラメだ」
「それはどうかね?」
聞き慣れた声に驚く。会場の入口に立っていたのは従兄弟のトナだ。
「トナ兄!?何でここに!?」
「すまないね。遅くなっちまった。いや、このタイミングが一番良かったかね。実はあの記事の信ぴょう性を調べていてね……さっき本人に会うことが出来たのさ」
「本人って?……あっ!俺のマイク!」
トナの後ろから走り出したのは若い女だ。ドミーのマイクを奪って、堂々とペイルズの前に立つ。
「このクソ男!!!!!!」
キーン!!!大音量。耳鳴りに顔を顰める一同。
「私を階段から突き落として意識不明にした癖に!DVを暴露しても涼しい顔しやがって!」
「やっと退院できたんだから!絶対慰謝料取ってやる!!オラッ!裁判所行くぞ!」
「い、いや……皆さん!この女の言うこともデタラメで……!」
報道陣は大忙しだ。今日だけでいくつ記事を書かなければならないのか。
「んふふっ……ギャハハ!!……おっと失礼。ドミー、満足したかい?」
「その顔……裏で糸引いてたなー?」
「んー?俺じゃないさ。協力したのは事実だがね。俺はただの探偵さ。依頼者がいる」
「探偵じゃなくて都合良し屋なー。そっか、依頼者がいるよなー。一体誰だ?」
「すぐに分かるさ。さて、俺は帰ろうかね。あんたは……今がチャンスなんじゃないかい?」
「あっ」
ケイトが報道陣に囲まれている。ドミーは立ち上がり、彼女の手を力強く握る。
「悪いなー。ケイトさんはこれから俺が」
「そうね。この後あなたと予定があるもの」
「えっ」
目を細めて笑うその表情にドキリとした。
二人で外に出る。ドレスコードのまま、大陸一の女優を連れて、駆け出しの歌手が都会のビルの間を走る。ビルから自分の歌声が聞こえてくる。あの主題歌だ。ドラマの予告映像には美しく微笑むケイトが。
「すげー!ドミニオとケイトだ!」
「今更新されたニュースの二人!?」
スマホを向けて写真を撮っているのは、ネットニュース速報を見た若者たち。
「あなたはこれからどこに連れて行ってくれるのかしら?期待してるわよ」
「あーあ、俺はただの歌好きの男でいたかったんだがなー」
「あらっ。そんなこと言っていいのかしら?うふふ」
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