第12話

「お父さーん!!」

玄関で娘が手を振って見送ってくれた。

俺はドアを閉め、会社へと向かっていく。

俺の名前は手越徳頑。35歳。娘が一人いる。

妻は数年前に事故で死んでしまった。残された娘と俺と二人暮らしをしている。

娘は今年で7歳になる。今年から小学校へ通う予定だった。

しかし、娘は病弱だった。

喘息が郁度起こり、学校へいくことが困難であった。

娘は先月まで病院暮らしをし、退院することはできたものの、

学校へ通うことは様子見ということでしばらくは家で療養することになった。

家政婦さんを雇い、家事と娘の面倒を見てもらっている。


俺は会社員として毎日会社へ出勤している。

今日も俺は会社にたどり着き、部署の部下たちと挨拶をし、席に着く。


「おはようございます!」

元気よく挨拶してきたのは俺の部下である雄勝。

今年で3年目の社員だ。まだまだ若い。

「今日もよろしくお願いします」

「ああ。よろしく」


今日はこの新人と営業周りをする予定だ。

「9時に出発な。準備しといて」

「分かりました!」


俺はメールをチェックして、出発の準備を進める。

AM9時。新人とともに会社を出発。午前中に1社、午後に2社回った。

新人の不慣れな運転に付き添い、のらりくらり顧客へ訪問した。


「よし、会社へ戻ろう」

無事に3社訪問し終えて、会社へ戻る。

会社に戻っては新人を帰らせ、そして自分は残業して報告書をまとめる。


「お先に失礼します!」

新人は元気よく退社してく。


「…いいな新人は。俺も昔あんなんだったかな」


社会人を10年以上続けていくと、新人時代が懐かしく感じる。

今では部下を持ち、ベテラン社員として働いている。給料もそこそこ上がり、何とか娘と二人暮らしができている状況だ。

19時。報告書のまとめが終わり、俺は退社することにした。

家に着き、俺は玄関をあける。

ドアが開く音と共に娘が玄関まで走ってきた。


「ただいま」

「お父さん仕事は?」

「終わったよ」

「遊べる?」

「もちろん」

「やったあああああ」


娘は飛び跳ねて父親に抱き着く。

徳頑は娘を抱き上げて、リビングへと向かう。


「まずはご飯食べよう亜理紗。」


幼い娘と二人で食卓に座り、家政婦さんが作ってくれたカレーを食べる。

嫁が亡くなり、家族は二人きりだが、この何気ない日常に幸福を感じていた。


次の日、徳頑はいつもの通り会社へ出社し、部署の部下たちと挨拶をして仕事へ取り掛かる。


仕事中に突然、家政婦さんから電話がかかってきた。


「亜理紗が倒れた!?」


俺は血相を変え、急いで病院へ行く。

病室へ入ると、そこにはベットで本を読んでいる亜理砂の姿があった。


「お父さん!」

「亜理砂大丈夫か!?」

「うん大丈夫!」


そう亜理砂が答えた途端、彼女はひどく咳をした。

咳が止まらなくなり、看護師を呼ぶ。

しばらくして咳が止み、亜理砂はベットに横たわった。


「無茶するな…安静にしてろ」

「うん…」


この後、担当医と話をした。喘息が再発したとのこと。

入院は必要ないとのことで、この日は娘と共に帰宅した。

次の日、朝起きて仕事へ出かけようとしたところ、亜理砂が一緒に居たいと泣き喚いた。

「ごめんな亜理砂。仕事を休むわけにもいかないんだ」

「夜帰ってくるからそれまで安静にいい子にしていなさい」

亜理砂は不服な顔でいじけてたが、最後には頷いてくれた。

娘はベットに入り込む。今日は娘の見送りが無かった。


今日は部下と共に夕方まで外出。

車の中で部下と雑談をする。


「娘さん元気ですか?」

部下が話しかけてくる。


「実はまた喘息があってな」

「え?こないだ退院されたのにまたぶり返したんですか!?」

「そうなんだよ。でもその時は軽微ですぐ治ったんだ。今は家で暫く様子を見ている」


「それはそれは……大変ですね」

「家にずっといるからつまんなくて文句ばっかなんだ。困ったもんだ」


「ずっと一人じゃ退屈ですよね。何か買ってあげたらどうです?」

「そうだな…ゲームやらオモチャやら買ってあげるか」


「今どこか寄りましょうか?もう今日は後帰るだけですし」

「悪いな…じゃあお言葉に甘えさせてもらうよ」


手越たちは帰宅途中でオモチャ屋へ寄る。

娘へのプレゼントを購入し、そして車へ戻る。


「悪いな」

「いいんですよ。家まで送りますよ!」


部下に運転を変わってもらい、出発する。

暫く夜道を突き進む。


「何を買ったんですか?」

「ぬいぐるみと知育菓子とそれからケーキ」


「沢山買いましたね!それは娘さんも喜ぶでしょうね!ケーキかあ。いいなあ。何ケーキですか?」

「イチゴケーキとチョコレートケーキ。娘はイチゴが好きなんだ」

「私の分は無いんですか?」

「ある分けねーだろ!また昼なんか奢ってやるからそれでチャラな」

「やった!」


部下とたわいのない話をし、夜道を進んでいく。

そして交差点を右に曲がり、メイン通りに出る。

その時、事件が起きた。


ブオンブオン!


突然、反対車線を走ってる車が右往左往しながらやってくる。


「前の車ヤバくないか!?」

俺はすぐに異変に気づく。

明らかに反対車線の車の様子がおかしい。

そして、その車は車線を超えてこちらの方へ突っ込んでくる!


「うわあああ!?」


部下はハンドルを急いで回し、避けようとする!

しかし、避けきれず正面衝突してしまう!!


ドカシャア!!!!


鈍く重い衝撃音が鳴り響く!

手越たちの車は衝突後、真横に回転する!

そして1回転した後、壁に衝突し止まる!

停止した車は左座席がへこみ、窓ガラスが粉々になっていた。


「……てごし…さん」


部下は微かな意識を保ちつつ、手越の方へ顔を傾ける。

そこには血だらけの手越の姿があった……。


暫くして救急車と警察が駆けつけてきた。

手越はすでに意識不明の状態であった。


手越が目を覚ますと、そこは死神の世界であった。

そこで死神と出会い、ヨミガエリゲームに参加し、今に至る。


(ああ……娘に会いたい)

(このまま娘を残して死ぬわけにはいかない…!)


(俺はなんとしてでもこの世に戻らなければ)

(娘に会えるチャンスがあるのならば、たとえ他人を蹴落としたとしても俺はヨミガエル)


『俺は必ずこの世に蘇りたい…!!』

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