第6話


「愛海ー」

学校の友達が1週間に1度私の元にお見舞いにやってくる。


「どう?体調は?」

「うん…普通」


2人とも学校のことを話してくれる。

部活のことやクラスのこと。

二人とも部活も一緒だし、クラスも一緒だった。

……二人は1時間ぐらい話してくれて、

そしてその後はまた一人になってしまう。

毎日母は私に付きっきりだ。どうやら仕事を休んでいるらしい。

それから父も夜20時ぐらいに来てくれる。


「ああ……どうして…」

「どうして私は……病気になってしまったんだろう」


3か月前、私は突然、教室で倒れて病院に運ばれた。

顔面を思いっきりぶつけた……手をつくことができなかった。

最初はただの不注意で倒れたのかと思っていた。

でも…あとから先生から私は重い病気を患っていると告げられた。

母と二人で先生から症状を聞く。

私の病気は神経細胞が失われていく病気とのこと。

まだ今は歩いたり、モノを持ったりすることはできるけど、

次第にできなくなるという。

そして最悪は喋ることもできなくなると先生は言っていた。

この時の私は特に自分の体の不自由さも感じてなかったし、

少し経てば治るものだと勝手に思っていた。


私はこの日から入院することになった。

毎日毎日リハビリの日々。

そして学校の友達や親戚がお見舞いしに来るようになった。

友達の話を聞いていると、もう学校に通っていた日々が懐かしい。

後数か月すれば、あの頃の日常に戻れると信じていた。


でも現実は違った。


ある日、私ははっきりと自分の体に違和感があることに気づいた。

物がうまくつかめない。距離感が前よりあからさまにつかめなくなっていた。

そしてその日から顕著に体の様子がおかしくなっていった。

昨日まで立ち上がれていたのに急に立てなくなった。

物を掴まないと立ち上がれない。

歩くときは母の支えが必要だ。

それから私は前までできていたリハビリもできなくなってしまった。

日を重ねていくうちに私は歩けなくなり、お手洗いも一人で行けなくなった。


段々自分にできていたことができなくなっていた。

そしてこの日から私は日記を書くようになった。


「怖い…」

「このまま私はどうなってしまうの……?」

「このまますべてを失って…すべて奪われて…」

「私も…いずれ……」


私の脳裏に一つの単語が浮かぶ。

それは今までの日常では考えたことも無かったことだ。



私は自分が死んでしまう未来しか見えなくて怖くて怖くて眠れなくなった。

無性に涙が流れた…。怒りがこみあがることもあった。

=

私は何のために生まれてきたのだろう

未来のことを考えると辛い

このまま死んでしまうことが…本当に怖いんだ。


私は夜、一人で同じ悩みを延々と嘆いていた。


最初は友達や先輩はよく来てくれたものの、だんだん来る回数が減ってきた。

来たと思えば、何か表情が暗いのだ。

何か変に優しく、そしてたまに深刻そうな表情が見られる。


そんなに悲しそな顔をしないで


私はそう願った。だって私は皆を悲しませたくなかったから。

私と会うたびにそんな表情になるのなら…いっそのこと私はいなくなった方がいいんじゃないかって思うようになった。


次の日…私は親に泣きついてしまった。

あまりの辛さに…死ぬことの恐怖に……。

また父と母を困らせてしまった……。


「ああ……私の存在が皆を困らせているんだ…。また同じ結論に至ってしまった」


自分と同じ境遇の人の本を読む。

勇気づけられる。皆、病気におびえながら、それでも今できることを懸命に進めていた。自分だけじゃないということを知る。

この人はすごい。こうやって他の人にも希望を与えている。

今の私とは正反対…。私は皆を悲しませている。

母も父も私のことを毎日毎日気遣ってくれて……。

先生も看護師さんも皆親身になってくれて…。

友達も先輩も優しい言葉をかけてくれて…。


「ああ……私は助けられてばっかりだ。」

「どうして私は誰の役にも立てないの!?」

「ああ……」

「私も……誰かを幸せにすることができれば……。」


夜になると、死の恐怖が私を襲う。このまま死んでしまう、怖い怖い怖い…。

まだ何もできていないのに、涙が止まらない。

どうして自分だけこんな病気になってしまったのか……っと。また同じ嘆きを繰り返してしまう。

毎日恐怖との闘い、後悔、死んでしまうことの無念、そしてどうしても、自分だけ不幸と思ってしまう。

そしてさらに数日後、私はついに喋ることも、日記を書くこともできなくなっていった。

文字も全て液晶の画面で入力して会話をしていた。

日々を重ねるごとに私は運命に大切なものを奪われていった。

クラスの皆とも別れ、親とも別れ

勉強は好きではなかったが、楽しかった学校生活。

テニス部所属。クラスのみんなとは仲が良かった。

友達がお見舞いに来てくれる。

その度に辛くなる。

死が直前になり、別室へ移動。

寝たきり。

毎日、死への恐怖。明日には自分という存在が消えてしまう。この今の意識が消えてしまう。



死ぬ間際。起き上がれなくなり、悟る。


親にはごめんなさい。友達もごめんなさい。

それでも懸命に日記を書き続ける。

死ぬまで。


それから私はこの世界にやってきた。

死と生の狭間の世界に……。



友達にお別れが言えなかった。恋もできなかった。

病気になった瞬間、会えなくなった。病気さえなければ、病気さえなければ

親が悲しむこともなかった。だから私は死にたくない。

できることなら、もう一度病気の無い世界で生き生きとしたい。大学生、社会人の明るい未来。

なんでもしますから。もう一度私にチャンスをください。


『私はこの世に蘇りたい』

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