第4話

死神に連れていかれた場所は、広い丘の上だった。

丘の下は崖であり、さらにその崖の先には森林が広がっている。

空は赤黒く、不審な雰囲気を漂わせている。

その丘にはゲームの参加者が何名か集っている。


イズ

「ここで待機してなさい。この後すぐゲームの説明が始まるから。」

「私とはここでお別れね。」


「そうなのか」


イズ

「せいぜい頑張ってちょうだい」

「あっそうだ。これから話されるゲームの説明だけど、一つだけ嘘があるから気をつけてね」


「は?」


イズ

「まあ大したことじゃないから気にしなくて結構」

「じゃあね~」


イズはそう京に言い残し、その場を去っていった。


「ゲームの説明に一つ嘘があるだあ?なんだそりゃ」


暫く京はその場で待機した。それから徐々に京のいる丘にたくさんの人が集まってきた。


「ここにいる奴らも俺と同じく死ぬ寸前ってことか。」


しばらくすると京たちの丘からさらに上にある丘に死神らしき人物が姿を現す。

顔はドクロであり、恐らくイズと同じ死神だと思われる。


ドクロ顔の死神

「皆さまご機嫌よう」


ドクロがしゃべりだした。


ドクロ顔の死神

「ようこそ。生死の狭間へ」

「あなた方は我々死神によって導かれる者たち」

「事前に死神から説明があったと思うが、

今ここにいるものは、この世にヨミガエリたいと願う者」

「あなたの周りにいる者たちはあなたと同様にこの世にヨミガエリたいものたちなのだ」

「そしてこの中から1人」

「たった一人のみ。この世に生き返れることを約束しよう」

「ではどうやって1人を選ぶのか……。それは既に死神から説明が合った通り」

「ヨミガエリゲーム」

「このゲームで勝利し者がそのヨミガエリの権限を得ることができる」


「ゲームを始める前にあなた方の意思を確認したい」


「意思……?」


京は死神の意思の確認という言葉に何か含みがあるように感じた。


ドクロ顔の死神

「あなた方が本当にヨミガエリゲームに参加する資格があるかどうか問わせてもらう」

「つまりは、あなた方が本当に蘇りたいと願っているかどうか」

「今から問う内容に対し、あなた方はどう思うか心の中で回答しなさい」

「こちらから一方的に問いかけていくが、あなた方からは一切質問は受け付けない」

「もし質問した場合は…罰を受けることになる。注意願う」


「心の中で……?どういう意味だ?」


ドクロ顔の死神

「さっそく一問。問わせてもらおう」


『貴方は

「ヨミガエリたいですか?」』


「……」

「なんだこの質問……」

「そんなのイエスに決まってるだろ」

「だからここに来ている」


暫くして、死神は言葉を発する。


ドクロ顔の死神

「なるほど」

「ここにいる全員がヨミガエリたいと願ったのですね。」


「では続いて2問目」

「貴方はこの世で未練がありますか?もしくは…やり残したことはありますか?」


「……。未練……?未練はあるぞ」

「俺はまだ死ねない。まだやりたいことがある」

「まだ生きて皆に会いたい」

「家族を…妹を……助けたい!」


「うわああああ!?」


「!?」


突然隣にいた男が悲鳴を上げる。


「なんだ!?」

「男の体から湯気が大量に吹き出し、徐々に男の体が消えていく!」


ドクロ顔の死神

「フフフ……」

「この世に未練無くしてヨミガエリたいと願う者が数人」


京の隣にいた男性は悲鳴と共に消え去った。


「なんだこれは……!?」


ドクロ顔の死神

「第3問」


死神は立て続けに京たちに向かって質問を投げつけた。


貴方は他人を蹴落とし、他人を殺したとしてもヨミガエル必要がありますか?


「!?」


京は一瞬焦った。他人を殺してまでもヨミガエリたいのかという質問に

少し戸惑いを感じた。他人を殺す。殺すということはこの世であれば罪に問われる行為。

そして道徳的にもやってはいけない。常識的に考えて人を殺してはいけない。

京だけでなくここにいるほとんどの人間がそう思っていた。


「……いや…いやいやいや」

「よく考えてみろ……」

「この世に生き返れるものはこの中のたった一人……!」

「それ以外はそのまま死に至る!」

「俺は何のためにこのゲームに参加する?」

「それは他人を蹴落としてまでも勝って蘇るためだ!!」


「ああああああ!?」

「うわああああ!!!?」


京の周りの何人かが騒ぎ出す!

体が透けていき、今にでも消滅しそうだ!


ドクロ顔の死神

「あはははは……心優しいものたちが何名かいたようだ…」

「しかし、残念ながらこのゲームは一人しか生き残れない」

「今から行うゲームはいわば殺し合い…!」

「他人を蹴落とす心意気が無ければ勝ち残ることはできない」


最初この場には500人いたが、すでに100人近くは消滅してしまった。


「なるほど……ゲーム参加にあたり、前もって参加する心構えがあるかどうか、質問をぶつけて確認しているわけか」

「もし質問に対してゲームの参加条件に満たさなければ、ここから消えてしまう。」


ドクロ顔の死神

「それでは4問目」


「くそッ…まだあるのかよ」


ドクロ顔の死神

「貴方たちがここに来る前に、一度死神たちから説明があったと思うが…」

「あなたたちは死ぬことを拒み、何としてでもこの世にヨミガエリたいと願い、ここに来た」

「しかし、ゲームに参加するほかに生きることをあきらめてあの世に行くという選択肢もあった」


「あの世とはどのようなところか。少し説明しよう」

「死後の世界は第二の生命活動を行うことができる場所。あなたたち先人たちが作り上げた新たな世界だ」

「もしかしたら亡くなられた貴方の大切な人がそこにいるかもしれない」


「……!」

「もしかしたら…郁たちがもし死んでいたら……」

「いや…今考えるのはやめろ。集中しろ。死神の言葉に耳を傾けろ」


ドクロ顔の死神

「死後の世界である「あの世」は、この世の世界とは異なる風習があるが、

争いは無く、不自由なく生きることが保証されている」


「つまり……あの世はこの世より生活レベルが高く、より豊かな暮らしができる。」

「たとえあなた達が蘇ったとしても、必ず幸せが保証されるわけではない」

「蘇って死んだ場合、もう二度とヨミガエリゲームには参加することができない」

「いや、それ以上に。あの世に行くこともできない」

「一度ヨミガエリを果たした人間は、もう二度とこの死の狭間に訪れることはできず、

そのまま存在そのものが消滅することになる。」


「それでもあなたは…このゲームに参加するのか?」


「ッ……」

「なんだそれ。つまりあの世で第2の人生を送れってことか……?」


「おい!」


遠方から一人の男が大声を上げる。


「死んだ人間は皆、そのあの世とかいうところに行くものなのか!?」


「冒頭でも説明したように質問は受け付けない。」

「罰としてお前は退場だ。」


「待ってくれ!!違…」


男の体が一瞬で溶けてしまった。


「落ち着け!!」

「俺はあの世とやらに悠々に暮らしたいか…?」

「いや、そうじゃないだろう!!」

「家族がいない世界で…妹たちが必死に生きている世界で」

「俺はのうのうとそんな第2の人生なんて送るなんてことはできない!!」


フオオオオオオン!!


丘の上にいた人間が何人か消え去った……。

思った以上に人が残りましたね。

最初は500人ほど人がいたが、今は400人弱しか残っていない。


ドクロ顔の死神

「それでは最後の質問」


「最後……」

「なんだ…何が来る……?」


緊迫した空気の中、ゲーム参加者は息をのむ。


「貴方がヨミガエリゲームに参加し、もし負けた場合、

死後の世界に導かれることなく、あなたという存在は消滅する」


「今ならばあの世に行くことができます。あの世であなた達は生き続けることができます」

「今、質問の中でゲーム参加の資格に及ばなかった者はここから消えてしまいましたが、

彼らは死んだわけではありません。彼らはあの世へ送られたのです」

「今らなら間に合います。今であればあの世に行くことができます」

「ゲームに参加するのであれば、負ければその時点で貴方という存在は消えてしまいます」

「そしてこの世にも存在が初めから無かったことになります」

「あなたたちの大切な人々からあなたが存在した記憶が消去され、

初めからこの世に存在しなかったことになります」


「それでもあなた方は…このゲームに参加しますか?」


「ゲームに参加することなく、死後の世界に行きたい方は参加しないことをお勧めします」

「さあ…判断してください。残るものは心で強く参加する意思を見せてください。」

「ゲームに参加するか、それとも安息の地へ向かうか。」


「……」


「俺がもしゲームで負けたら…俺という存在は皆の記憶から消えちまうのか」

「それはもう……本当の死。」

「まだあの世とやらで生き残れるのであれば……」

「いや…違う…違うんだ」

「たとえゲームで負けても俺が存在が消えたとしても…」

「それはそれでいいじゃないか」

「俺にとって郁、親父、母さん…皆がいない世界なんて」

「そんなの生きている意味が無い」

「ぶれるな……俺はこの世に蘇ってあの殺人鬼から皆を…守るんだ」

「生き返ってあの殺人鬼を止めるんだ……!」


「俺は参加する。絶対にだ!!」

「たとえ負けて存在が消えようとも、」

「俺を生んでくれたこの世界に帰れないならば」

「意味が無い!!」


ザザザザザ……

丘の上に残っていた人間たちが次々と消えていく……。

そして残されたのは…約200人程度。


ドクロ顔の死神

「おめでとう諸君」

「君たちはこのヨミガエリゲームに参加する資格がある」

「今回はいつも以上に残っている」

「さあ勇敢な参加者たちよ。己の存在をかけて……」

「勝利を目指し、そしてヨミガエリを果たすといい。」


「ここからはゲームの説明に入る」

「まずは正面のこの映像をご覧あれ」


死神の真上に大きな映像が映し出される。

その映像には地図が表記されていた。



映像に映し出された地図はこの生死の狭間の地図となる。

そしてここ。


死神が地図の下側にある、赤い矢印のところを指さす。

「この赤い矢印が今、我々がいるところだ」

「ここからスタートし、森林を抜け、そして塔を抜けて……」

死神の言葉に沿って赤い矢印が地図上を動いていく。

どうやら順序を見せているようだ。

「そして最後はここ」

矢印は地図の真上にある階段の頂点へ留まる。

階段の上は光り輝いている。

「ここがゴール」

「ここに一番目に到着したものが、この世にヨミガエリを果たすことができる」

「つまり、ヨミガエリゲームとはこのゴールまで競い合うもの。そして一番目にゴールしたものが勝者となる」

「シンプルでわかりやすいだろう。特に明確なルールなどは無い。単純にこのゴールまで目指せばよいのだ」

「しかし、このゴールまではあらゆる障害や仕掛けが存在する」

「それを乗り越え、知恵を絞り勝ち進むことで、やっとこのゴールの場所までたどり着ける」

「……つまりこれは障害物競争をやらされるということか」

「しかしなあ…それだけでは面白くない。ただ単に速さを競うだけでは何も面白味が無い」

「そこでプレイヤーの諸君には知恵と勇気をフル活用してもらうためにもう一つ面白いルールを設けた」

「諸君がここに来るまでに死神からもらった球があるだろう?」

「球……これか?」

ここに来るまでの間にイズから受け取った虹色の球を取り出す。

「諸君が持っているその虹色の球はこのゲームを大きく左右するものと言っても過言ではない」

「それはあなた方プレイヤーの魂そのもの」

「魂……?」

「その球は貴方そのものを表す鏡のようなもの。具体的には……」

「その球は貴方に能力をもたらす」

虹色の球が一斉に光りだし、京をはじめとするプレイヤーたちが次々とその虹色の球の光に包まれていく!

「なんだこれは!?」

京の脳裏に走馬灯のようにいくつか記憶が映し出される。

そして最後には殺人鬼に発砲されるところが脳裏に映る!


気が付けば京はクルーズ船の中にいた。地面や壁に血痕がたくさんついている。

「なんだこれは……俺は……生き返ったのか…?」

「それとも……夢?」


妹が、家族が襲われているのではないかと思い、走り出す。

妹が殺人鬼に襲われているところに遭遇。

京は殺人鬼にタックルする。

殺人鬼が銃器で京を殴る!

撃たれる!!

瞬時に蹴飛ばし、銃の弾から逃れる!

銃ですり傷を負った。

殺人鬼が手元のナイフを取り出す!

何か…何か武器があれば……!

フィイイイイイン

京の手元にかぎ爪が現れる!

かぎ爪でナイフと鍔迫り合う。


ガキイイイイイン!!


ナイフを弾かれた殺人鬼は再び銃の元へ走る。

銃を取ろうとするところに京はかぎ爪を投げる!

かぎ爪の後ろから鎖が生成されていく!


「!!」


京が投げたかぎ爪に鎖が伸びていき、

京の手に鎖が巻き付く!!

かぎ爪は銃にあたり、殺人鬼は取り損ねる。

手に持っている鎖には小型の鉄球が付いており、

京はそれを見ては、即座に殺人鬼に投げつける!

殺人鬼の体に鉄球がヒットし、殺人鬼はよろつく。

よろついた際に、かぎ爪を回収し、そのかぎ爪で殺人鬼を刺す!!


「ぐぎぎ・・・・・」

「お前に郁を殺させてたまるか…!お前に殺されてたまるか!!」

「ここからいなくなれ!!」


ドンッ


一瞬にして目の前が真っ黒になり、意識が途切れる!

そして暗闇の中から先ほどの丘の上にいた死神の声が聞こえる。


どこからか声が聞こえる……。


フィイイイイイン!!!


「何よりもお前は倒れるまで抗った。殺人鬼に大切な者を奪わせないとそう思い立ち向かった」

「お前には抗い、そして何事にも臆せず立ち向かう力がある」

「お前に必要な能力…それは死しても抗う心の武器」


光から解放され、意識が元居た場所に戻った。

京は気が付けば、爪カギ付きのワイヤーを手にしていた。


「これは…!?」

「あなた方が今手元に持っているもの。それが貴方たちの武器であり、能力です。」

「それは貴方の力を最大限に発揮し、ある時は己の身を護り、ある時は敵を倒す武器となり、

ある時はあなたをピンチから救ってくれる優れものです」

「その能力をうまく使い、このゲームに勝ち進むのです」


「さあその能力を駆使し、勝ち残るがいい」

「さっそくスタート地点へ立ってもらおう」

「行き先は虹色の球が示してくれる。健闘を祈る」


京は気が付けば、先ほどの丘とは別の場所に立っていた。

「ここは……」

「何が一体どうなってるんだ!?」


フィイイイイイン


京が持っていた虹色の球が光りだす。


「なんだこれは……」


虹色の球には赤い矢印が付いていた。


「なんだこの矢印……」

「というか先ほどの死神や他の奴らはどこに行った!?」


京の周りには誰もいない。


「さっきの声……この球が行き先を示すだのなんだの言ってたな……」

「この矢印の方向へ進めってことなのか」


京はその虹色の球が示すほうへ歩いていった。

その先は森林であった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る