第4話
てなわけで、佐々木と職員室前に戻ってきたわけだが。
「少し前に面談は終わったらしい。どこ行ったんだあいつ……」
すれ違いでこの場を離れた後だった。微妙に間が悪いな。てか、人におつかい頼んでるんだからフラフラ移動すんじゃねぇよまったく。
「もう帰ったんじゃない? せっかく覚悟決めて来たっていうのに……」
「いや、一緒に帰る約束してたし、さすがに先に帰りはしないだろ。もしそんなことしてたら俺ん中であいつの評価はだだ下がりだ」
マジだったら全部バラしてやる。いや、それじゃあ罰にはならんか? 風情は欠片もなくなるが。
「だったら教室に戻ってるとか、それか化粧室かも」
「そうだな。俺はこの辺りのトイレ探してくるから、佐々木は俺たちの教室で待ってろ。もしあいつが居たら先に告白してても構わんぞ」
「大きなお世話! つーか告白してるとこ見んな! そん時になったら黙って帰れ!」
「はいはい」
焦らされてイライラしてんのか今日は沸点低いな。まぁ、あんな恥ずかしそうに怒られたところで怖くもなんともないんだが。
そんなこんなで、俺は近場の男子トイレを一通り見回ったんだが、友治の姿は何処にもなかった。
こんな時こそスマホで連絡取りたいが、校内じゃ使用禁止だからな。バレたら没収されるリスクを考えると迂闊に鳴らせない。こんな校則さっさと撤廃しろよまったく。
「どこ行ったんだあいつ。一旦戻るか」
案外教室にいて今告白の真っ最中だったりしてな。佐々木には見んなって言われたけど、ここまで来たら野次馬根性が出てきてしまう。後押ししたお礼ということで、少し覗かせてもらおうか。
そんな少し浮かれた状態で教室の近くまで戻ってきたわけだが、教室で待ってろと言った佐々木は、中に入らず、隠れるようにして教室の中を覗いている。
何してんだあいつ? 端から見たらめちゃくちゃ怪しいぞ。
「おい佐々木。何やって――」
「しっ!」
俺の声を遮ってまで教室の中を覗き続ける。なんなんだいったい……?
当然、こうまでされては俺も気になる。こっそり中を覗いて見ると、そこには信じがたい光景が繰り広げられていた。
「ちょ、やめ、止めろって」
「な~に恥ずかしがってんの。ほら、ここか~? うりうり~」
「おまっ、ほ、マジで止めろよ」
友治の奴が知らない女子生徒とイチャイチャしていた。
「……」
「……」
……は? 何あいつ。佐々木に惚れたから探ってきてくれって俺をパシらせといて、自分は他の女子と身体密着させてイチャイチャしてやがる。
相手の女子はまったく見覚えがない。上級生か? あんなに美人でスタイルいい女子に後ろから抱き着かれて、大きな胸を押し当てられて、うらやま……けしからんぞ!
あいつもあいつで、口では止めろとか言ってるくせに、顔はにやけてるし、声はだらしない。楽しんでんじゃねーよ!
「……帰る」
「あ、おい、佐々木」
そりゃこんな場面に遭遇したら帰るわ。じゃなくて! まずいだろこれ!?
俺こんだけ焚きつけといて、その気にさせて告白って流れになったのに、いざ覚悟決めたらあんな光景見せられて。上げて落すってレベルじゃないぞ!?
「おい、待てって佐々木! これは何かの間違い――」
俺の言葉は、振り向いた佐々木の表情を見て途切れてしまった。
「嘘つき」
涙目で、怒りや悲しみの籠められた眼つきで、俺を睨み。
震えた口で、憎しみや絶望を絞り出すような声で、俺に言い放った。
そして、頭の中で反芻されているであろう光景と、内から湧き出てくる感情を散らすように、全力でこの場から去っていった。
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