第3話

明かに台風の一番ヤバい時間が始まりつつあった。

雨はさほどではないが、疲れを差し引いても風でふらつく。


しばらく歩いてみて、おれも家に帰るより避難した方が良いことを実感する。それにしてもあの老婆と同じ体育館に詰めるのは気乗りしなかった。


目についた頑丈そうなビルに入る。

追い返されるのを半ば覚悟していたが、普段通りに営業していた。

そこはひなびたゲームセンターで、なんとなく色々の意識が低いことにおれは納得してしまった。この状況ではありがたいことではある。

エアコンのかかりは悪いが、濡れた身からすると丁度良かった。張り付いてくる服が不快だが風邪をひく気遣いはない。


ハンカチで顔やら腕やらを拭いながら、店内をぶらついて回る。壁紙が所々剥がれたり黒ずんだりしている。特に食指の動くゲームはない。

雨宿りの例にワンコインくらい落として帰ってもいいのだが。


フロアごとに別々のコーナーが設けられており、それぞれがそれぞれのやり方でひなびていた。

最初がアーケードのコーナーで、筐体に埃が積もってるあたり、レトロゲームのマニアだと悲しむかもしれない。

クレーンゲームなどの景品は、5,6年前にちょっと流行ったようなのが、更新されることなく、席を守っている。

メダルゲームとパチスロのコーナーは、こんな時にも関わらず、おいちゃんおばちゃんが濁った眼付でリールの回転を眺めていた。

見れば見るほど物悲しくなるような風景で、音と光だけが景気よく騒いでいた。

内実の伴わないけばけばしさが空々しかった。

今日という日はどうしてこう目につくもの全てが不景気なのか。


せっかく最上階まで登ったので、窓から外を眺めてみる。

流石に見晴らしはよい。安全圏から台風が町を揺らすのはなかなか見応えがあった。

と、つんとタバコの臭いが鼻についた。

喫煙所でもないのに、と思って見回す。

汚いなりのおばちゃんがつまらなそうにスマホをいじりながらタバコをふかしていた。


なんでわざわざ……。少し気が晴れたと思うとこれだ。

メッセージでも送り終えたのか、おばちゃんはスマホをしまう。そしてあろうことか、床でタバコの火を消し、そのまま歩き去った。


分煙の意識のカケラもないゲーセンである。

歩いて数歩の所に灰皿があるにも関わらずだ。

念の為調べたらおれの歩幅で17歩だった。

その程度のことすら横着せねばならんのか。

ふつふつと怒りが滾っていた。

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