第2話

散らばったゴミの片づけが終わると、風はより強くなっていた。

急いで帰らないと。

そう思って、小走りに道を行くと、よろよろ歩きの老婆に出くわした。

強風の影響をもろに受けながら、杖をつきつき歩いている。


放ってもおけず、大丈夫ですかと声を掛ける。

聞けば、台風が来る前に避難しようとしてこの有様らしい。

この辺りでは冠水は珍しくない。それで慣れっこになって甘く見ていたら去年の出水期にひどい目にあったらしく、早めに家を出てみたものの、道に迷う内に風が強くなってきた、ということらしい。


風はうるせえし、老婆はだいぶん活舌が怪しいしで、これだけ聞き出すのに随分時間を食ってしまった。


兎に角向かっている避難所には心あたりがあった。幸い老婆は小柄だし、提げている非常用らしい鞄も大した荷物ではない。

おぶって行ってやることにする。


ちょっとでも恐縮してくれればかわいいものだが、おれの申し出に老婆は待っていましたとばかり無遠慮によじ登ってくる。


「ほんなら、頼みましたわ」

「はあ」


えっちらおっちら歩いていると避難場所である小学校の体育館についた。

何人か避難してきているのか、休日なのに窓から灯りが漏れている。


「こんなとこにあったんか」

「はあ」

「解りづらいとこやね……」

「いや、小学校ですよ……」

解りやすいことこの上ない。

「もっとウチとこから近いとこに作ってくれたらええのに」

「近かったら避難する意味あんまりないんと違いますかね……」

 背を降りてからも老婆のしみったれた愚痴は続いた。

おれは安請け合いを後悔する程度には消耗していた。小柄な老婆とは言え大風の中背負うって歩くのはしんどいものだ。

 それを知ってか知らずか、老婆の愚痴は体育館に入るまで続き、とうとうおれに対しては礼の一つもなかった。


 ただ、徒労感だけがあった。

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