おれたちはこう生きるが?
友里一
第1話
朝目が覚めるとマッチングアプリの相手が強制退会を食らっていた。ここまでの処分となるとどうも業者だったらしい。
カネの話はまるでしなかったし、お互いのことを随分話して気が合うと、信頼できると思っていたところだった。
そろそろデートを、という段で、会う日や場所俎上にのせるところだった。
……幸運だったと思うべきだ。
実際会う前に露見したんだから。実際会ってたらケツの毛まで毟られていたかもわからない。危ないところだった。
決してこれまでの努力がムダになった、だとか、期待してたのに全部水の泡、だとか考えてはいけない。
考えないために、朝食も支度もそこそこに家を出る。
せっかくの休日だ。楽しまなければ。
風が異様に強い。歩いていてもぐらつくほどだ。
店頭のテレビが、台風が近付いている注意を促していた。
朝の支度をそこそこにしたのが早速裏目に出ている。
サッと用を済ませて帰れば良い。
楽しみにしていた雑誌の発売日だ。それさえ手に入れば気分もガラリと変えられる。
書店に入ると、顔見知りの店員がこちらを見付け、「あ」という表情で気まずげに駆けてくる。
「すみません、定期購読されてるぶんですけど」
「はい」
「天候不順で出荷遅れてるようでして」
「……はい」
「申し訳ありません、何度かお電話させていただいたんですが……」
スマホをみると確かに着歴がある。映画に行った時、着信をミュートにしたまま忘れていた。
「申し訳ありません……」
「いえ、そういうことでしたら。仕方ないですし」
「また入荷日決まったらご連絡させていただきますので」
「はい……お願いします」
切り替えよう。
早く帰って家で映画なり好きな配信者の動画なりを見て切り替えよう。
おそらくこのまま外に居てもロクなことにはならない。
だいいち空模様もおかしい。
本格的に台風が来たら……一応カバンに折り畳み傘はあるが太刀打ちできまい。
足早に帰路を行くがふと暴風に倒されたゴミ箱が目に入った。
自販機横に立っていたのが、大きく離れペットボトルや空き缶をブチ撒け道の真ん中に横たわっている。
大変だろうな、と思う。
つい、台風の後の業者の仕事を想像してしまう。
ため息をついて、散らばった空き容器を集め始める。ここでスルーしても後々心のしこりになるだろう。
そう時間を食うものでもない。少々手が汚れるだけだ。
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