第27話 二日酔いジェラシー(9)

「は? 嘘って何だよ?」


 シロ先輩は目を丸くして聞いてくる。私は笑いを堪えて答えた。


「用事があるっていうの、嘘です。ただシロ先輩に会いたくなかっただけです」


 私は立ち止まって、シロ先輩の方を見る。シロ先輩も足を止めた。しばらく見つめ合う形になると、シロ先輩は気まずげに視線を逸らし、小さく呟いた。


「やっぱりまだ怒ってるのか……?」


 私は吹き出しそうになるのを必死に耐えた。ここで笑ったらまた怒らせてしまいそうだと思ったからだ。


 私はわざとらしく怒ったような口調で言う。


「もうっ! ほんとですよ! あんな面倒くさい思いは二度とごめんです!」


 シロ先輩は困ったように頭を掻く。


「悪かったって。今度、飯奢るから」


 私はそれを聞いて、少し考えるそぶりをする。


「うーん……まぁ、奢ってくれるって言うなら、遠慮なくご馳走になります。……本当はもう許してますけど」


 ニヤッと笑いながらそう返すと、シロ先輩は苦笑いを見せたあと、嬉しそうに「おう」と言った。


 二人並んで歩き出す。さっきまで重たかった心はいつの間にかすっきりしていて、とても晴れやかな気持ちだった。もうストレス発散に面倒な料理もしなくていい。今日のうちにシロ先輩と仲直りできて良かった。来週にしこりを持ち越さずに済む。


 月曜日の予定を頭に浮かべつつ、隣にいるシロ先輩を見上げると、耳が寒さのせいか赤くなっていた。


 私は自分のマフラーを外すと、それをシロ先輩に差し出した。シロ先輩は訳がわからないという顔で驚いている。


「嘘ついたお詫びに、それ、貸してあげます」


 私が照れ隠しでぶっきらぼうに言うと、シロ先輩は一瞬固まった後、首を振った。


「でも先輩、耳真っ赤ですよ。寒いんじゃないですか? 風邪とかひかれたら困るんで。仕事」


 私がシロ先輩の耳に視線を向けると、彼はバッと手で耳を押さえた。


「……おう」


 そう言ってシロ先輩は私の手からマフラーを受け取ると、首に巻いて口元まで覆ってしまった。


 恥ずかしかったのだろうか。


 そう思うと、なんだか可笑しくて思わず笑ってしまう。すると、シロ先輩は拗ねたようにそっぽを向いてしまった。


 それから私たちは一言も喋らず、駅までの道を歩いた。駅に着くと、シロ先輩はこちらを振り向いて言った。


「じゃあ、帰るな」

「はい。今日は来てくれてありがとうございました」


 ペコリと頭を下げる。改札を通りホームへ向かうシロ先輩の後姿が見えなくなるまで見送って、私は一人家路についた。

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