第26話 二日酔いジェラシー(8)

 慌てて「了解しました」と送り返す。


 買い物かごの中の品物を棚に戻し、店の外に出ると、もうすっかり夜になっていた。冷たい風が吹いて、身震いする。いつの間にか季節が変わっていたことを実感した。


 急がなくてはと足早になりながら、先程のシロ先輩とのやりとりを思い出す。


 わざわざ家の近くまで来て、一体何を言われるのだろう。全く予想できない。


 そわそわとしながら目的の場所へ向かう。


 シロ先輩に指定された喫茶店に着く頃には、辺りは真っ暗になっていた。店内に入ると、奥まった席に見慣れた人影があった。


「シロ先輩」


 私が声をかけると、シロ先輩は顔を上げた。


「悪い。急に呼び出したりして」

「いえ、大丈夫です」


 そう言って向かいの椅子に私が腰掛けると、シロ先輩は店員を呼び止めてホットコーヒーを二つ注文した。


「あの……それで、何か急用ですか?」

「あーうん。実は、その、なんだ。俺、お前に謝らないと……」


 シロ先輩は歯切れ悪く言った。それから意を決したようにこちらを見つめてきた。


「俺、今日、変な態度とったよな? 悪かった! お前が吟と仲良くしているのを見てたらつい……」


 シロ先輩は頭をガバッと下げた。私はポカンとしてそれを見た。


「えっと……急用ってそのことですか?」


 思わず聞き返してしまう。


「ああ。……吟が、お前に謝ってこいって、うるさいんだ」


 真剣な表情でそう答えるシロ先輩。


 拍子抜けもいいところだ。私は大きなため息をついた。


「そんなこと……気にしないでください」


 そう言うと、シロ先輩の顔がパッと明るくなる。


「本当か!?」

「はい」

「よかった……。本当にすまなかった」


 シロ先輩はもう一度頭を下げた。


「いえ、だから、いいですってば!」


 私が慌てて声を上げると、シロ先輩はやっと頭を上げてくれた。そしてホッとしたように微笑んだ。私もつられて笑顔になる。


 シロ先輩は私に謝罪できたことに満足したのか、その後は仕事の話や、最近見た映画など他愛のない話をしてくれた。


 いつも通りの穏やかな時間が過ぎていく。やはり、シロ先輩とはいつでもわちゃわちゃとしていたい。


 ふと、窓の外を見ると、雪がちらつき始めていた。


 シロ先輩が帰ろうかと言い出したので、二人で店を出る。外はとても寒く、吐いた白い息が空へと消えていった。


「そういえば、悪かったな。予定変更させて」


 シロ先輩は申し訳なさそうな顔をしていた。


「いえ、大丈夫です。あれ、嘘ですから」


 私は悪戯っぽく笑ってみせた。

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