第17話 シロヤギさんからの手紙(7)

「昔ね、みんなの中に埋もれてしまうことが嫌で、無理やり自分を大きく見せていた時があったんだ。そんな時、言われた言葉があってね。それで、肩の力が抜けたんだ」

「それは……どんな言葉だったんですか?」


 白谷吟は、絶対的な信頼を含んだ眼差しを、シロ先輩に向けつつ、静かにその言葉を口にする。


『無理しても、それは本当の吟じゃないよ』


「それって……!」

「昔、流行っていた漫画のセリフ。それを史郎は、大真面目な顔で僕に言ったんだ」


 ふふっと笑う白谷吟の言葉は、私の耳には入って来なかった。


「私も、その言葉を……知っています」


 ぼんやりと呟いた私に、白谷吟は、おかしそうに口元を緩める。


矢城やぎさんも、史郎に、同じことを言われたのかい?」

「……いえ……、私は、その言葉を私にくれた友人が、誰なのかを知りません」

「どう言うこと?」


 私の言葉に、不思議そうに白谷吟は首を傾げた。


 その言葉をもらうまでの私は、八木少年と同じように、人見知りが激しくて、人となかなかうまく話せない子供だった。


 自分の気持ちを話せるのは、お気に入りのぬいぐるみだけ。特にお気に入りだったのが、ヤギが郵便配達員に扮した人形だったのだが、何故それがお気に入りだったのかは、覚えていない。けれど、それを「シロヤギさん」と呼び、片時も手放さず、どこへ行くにも常に持ち歩いていたことは覚えている。


 そんなお気に入りのシロヤギさんを、一度だけ紛失したことがあった。


 近所にある神社で行われた夏祭りに、両親と出かけた帰り道。いつものように肩から下げていたポシェットに、シロヤギさんが入っていないことに気がついた。


 ポシェットのファスナー部分から顔を出すように入れていたシロヤギさんを、どこかに落としてしまったようだった。


 泣きじゃくる私に、両親は、また別の物を買ってくれると言ったけれど、どうしても、シロヤギさんでなくては嫌だった私は、翌日、一人で、神社の周辺や境内の中を探し歩いた。


 いつものひっそりとした境内と違い、多くの人が訪れたからか、あちらこちらに、祭の名残が見受けられ、それらを片付ける大人が何人もいた。


 その大人たちに声をかけていれば、早く見つかったかも知れないが、私には、それが出来なかった。


 一人で、神社の周りや、境内の中をうろつき、随分と長いこと探し回ったが見つからず、疲れ果てた私は、やはりもう見つからないのではないかと、ガックリとしつつ、ベンチに腰を下ろした。

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