第16話 シロヤギさんからの手紙(6)
『初恋』なんて淡い言葉は、傍若無人で粗雑なこの人には、全く似合わないなと思いながら、横を見れば、シロ先輩は完全に机に突っ伏して、涎の海を作っていた。
「シロ先輩の初恋……ミスマッチ過ぎて、逆に気になる」
真顔でボソリとつぶやいた私の言葉を、白谷吟は、しっかり拾う。
「僕は、史郎の初恋より、
「えっ?」
驚いて視線を戻せば、白谷吟は、飄々と酒を煽っており、実はこの人も相当に酔っているので、こんな事を軽々しく口にするのかしらと、不意に思ってしまう。
しかし、見るからに酒に飲まれてしまったシロ先輩と違い、一見そうは見えないところが、スマートで、やはり、爽やかと言う言葉が似合う人だなとも思う。
「
ニコニコと話題を振ってくる白谷吟に、しかし私は、顔の前で両手の人差し指をクロスさせ、バッテンを作った。
「教えませんよ〜」
「あはは。そうか。残念。じゃあ、
残念と口にしながらも、特に食い下がる様子もなく、こちらを不快にさせない。それでいて、サラリと話題を換えて、会話を続ける白谷吟のスマートさは、なるほど、多くの女性が放っておかないわけだと、納得する。
「私の子供の頃ですか? 特に面白く無いですよ? 至って普通です。元気印が取り柄という訳では無いですが、それなりに元気で明るくて、クラス全員友達と言うわけでもないけれど、それなりにみんなと仲がいい、そんな子供でした」
至って普通。それは、私を表すのに、一番適している言葉だ。何かに秀でていることもなく、ただ、平坦に生きている。
だから、自分のことを聞かれると困ってしまう。
「友達も、白谷先輩とシロ先輩のような関係の人はいませんし、……所謂、広く浅い付き合いしかしていないので……」
話しているうちに、なんだか、自分は人生の上っ面だけを生きているような気がして、恥ずかしくなった。思わず、言葉が尻すぼみになり、俯いてしまう。
「僕もそうだよ」
そんな私に、先ほどまでの明るさを纏った言葉よりも、ワントーン抑えた口調で、白谷吟は、私に語りかけてきた。
「僕も、
「白谷先輩がですか? 昔から、人気があるのかと……?」
白谷吟は、私の言葉に静かに首を振り、ニコリと微笑んだ。
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